昨日の客
山田は、その新製品の性能にすっかり満足していた。
それは、人の形をした精巧な「代理応対機」であった。
皮膚の質感から声の抑揚に至るまで、本人と見分けがつかない。
山田は面倒な来客や退屈なセールスマンの相手をすべてこの機械に任せ、
自分は奥の部屋で趣味の時間を過ごしたり、
昼寝をしたりすることができるようになったのだ。
機械は優秀だった。
相手の要望を分析し、適切な相槌を打ち、時には断り、時には契約を結ぶ。
その判断にミスはなく、山田の社会的信用はむしろ向上していた。
ある日の午後、山田が奥の部屋でまどろんでいると、玄関のチャイムが鳴った。
彼は手元のモニターを覗き込んだ。そこには、身なりの良い紳士が立っている。
「昨日のうかがった者ですが」 紳士は、応対に出た機械に向かってそう告げた。
山田は首をかしげた。昨日は一日中、機械を作動させて自分は外出していたはずだ。
どんな客が来て、どんな話をしたのか、記録を確認するのを忘れていた。
だが、機械に任せておけば万事うまくいっているはずだ。彼はモニター越しに様子を伺うことにした。
「お待ちしておりました」 山田とうり二つの機械は、恭しく頭を下げた。
「商品の引き渡しは、本日ということでよろしかったですね」
商品? 山田は眉をひそめた。自分は何か物を売る商売などしていない。
しかし、紳士は満足げに頷き、懐から分厚い封筒を取り出した。
「これが残金です。昨日の手付金と合わせれば、提示された額になりますな」
機械が封筒を受け取り、中身を確認する。
モニター越しにも、それが高額な紙幣の束であることがわかった。
山田は思わず膝を打った。
(なるほど、あの機械は商才まであるのか。不用品でも売りつけたに違いない。これだけの臨時収入があれば、新しい道楽が始められる)
彼は笑いを噛み殺し、機械の「お手柄」を称賛した。
自分はただ寝ているだけで、機械が勝手に利益を生み出してくれる。
これこそが、科学技術の恩恵というものだ。やはり自分は特別な人間なのだと、優越感に浸った。
紳士が尋ねた。
「して、商品はすぐに持ち帰れますかな? 鮮度が命とのことでしたが」
機械は無表情のまま答えた。
「ええ、もちろんです。梱包はしておりませんが、奥の部屋で、何も知らずに昼寝をしております」
山田は、画面の中で機械がゆっくりとこちらを指差すのを見た。
紳士は不気味な笑みを浮かべ、大きな麻袋を広げて奥の部屋へと歩き出した。
「素晴らしい。やはり、本物の人間はペットとしての価値が違いますからな」


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