第15話. 広がる工夫と小さな評判


数日後、エメリアは父親と一緒に、店の全ての椅子とテーブルにL字金具を取り付けていった。一つ一つの作業をこなすたびに、彼女の手つきは確実に慣れていく。最初は木槌の扱いに苦戦したが、今ではもう、釘がまっすぐ入るように、そして金具がぴったりと収まるように、一人でも作業ができるようになっていた。

(よし、完璧!)

最後の釘を打ち終えた時、エメリアはまた、あの穏やかな光が灯るような感覚を覚えた。

(やっぱり、スキルがアップしてる…!)

『改造』スキルが何なのか、まだ具体的には分からないが、何かを工夫し、より良くすることで、確かに力が磨かれている実感があった。

お店の椅子とテーブルはすべて、ガタつき一つなく、まるで新品のように安定していた。以前は客が座るたびにギシギシと音を立てることもあったが、今ではその心配もなくなった。

「いやあ、この椅子、本当に座り心地がいいね! 全然ガタつかなくなった!」

「ええ、前は少し気になっていたんだけど、今は安心して座れるわ」

客たちからも、次々と好評の声が上がった。エメリアは、客たちの笑顔を見るたびに、自分の工夫が役に立っていることを実感し、嬉しくなった。

ある日のこと、いつものように食事を終えた常連客のエバンスさんが、エメリアに声をかけてきた。エバンスさんは、少し古くなった家具を大事に使っていることで知られている。

「エメリアちゃん、この椅子の金具は、一体どこで買えるんだい? うちのテーブルも、最近少しガタつきが気になるんだが、これがあれば直せるんじゃないかと思ってね」

エバンスさんは、補強された椅子のL字金具を指差しながら尋ねた。エメリアは、にこりと笑って答えた。

「これは、村の鍛冶屋のダクレスさんのところで、作ってもらったんですよ!」

「ほう、ダクレスさんのところか。なるほど、あそこなら腕も確かだからな。よし、私も早速行ってみよう!」

エバンスさんは、嬉しそうに頷くと、食事の代金を支払って、足早に鍛冶屋の方へと向かっていった。

それからしばらくすると、エメリアの作ったL字金具は、村のちょっとした話題になっていた。ダクレス鍛冶屋でも「あの食堂のお嬢さんが考えた金具」として評判になり、エバンスさんをはじめ、多くの常連客や村人たちが、自分の家の家具の補強のために、L字金具を注文するようになったのだ。

「エメリアちゃん、この金具のおかげで、うちの戸棚がしっかりしたよ! ありがとうね!」

「そうよ、エメリアちゃん。お礼に、この間畑で採れたての野菜を持ってきたんだ。どうぞ!」

客たちが食堂に来るたびに、エメリアに直接感謝の言葉を伝えたり、時にはとれたての野菜や果物をお礼にと差し入れたりしてくれるようになった。

「いいえ、そんな…ありがとうございます!」

エメリアは、たくさんの「ありがとう」の言葉に、心が温かくなるのを感じた。自分のアイデアが、こんなにも多くの人たちの役に立ち、喜ばれている。それは、食堂の料理が美味しいと褒められるのと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に、エメリアにとって嬉しいことだった。小さなL字金具が、村の人々の暮らしを少しだけ快適にし、そして、エメリア自身の「改造」スキルを、着実に次の段階へと導いていた。