第17話. 父の条件と新たな約束

昨日のダクレスからの申し出は、エメリアの心を大きく揺さぶっていた。鍛冶屋で働くこと。それは、自分の『改造』スキルを磨く上で、これ以上ない機会のように思えた。彼女は、あのL字金具が村の人々に喜ばれた時の感覚を忘れられずにいた。

しかし、父親は難色を示した。

「エメリア、お前はまだ十歳だぞ。鍛冶屋なんて、大人ばかりの男の職場だ。危険な道具も多いし、埃っぽいし…」

夕食の席で、父親は心配そうに眉を下げた。彼の言葉には、幼い娘を危険な場所に一人で送り出すことへの、純粋な抵抗が滲んでいた。

「でもお父さん、私、もっと色々なものを作ってみたいの。この間、椅子を直した時みたいに、みんなが喜んでくれるのが、すごく嬉しいんだ」

エメリアは、なんとか父親を説得しようと、自分の気持ちを懸命に伝えた。

「気持ちは分かるが…」

父親は、腕を組み、深く考え込んでいた。その様子を見ていた母親が、口を開いた。

「あなた、同じ村の中じゃない。それに、ダクレスさんだって、エメリアを危険な目に遭わせたりはしないでしょう。もし心配なら、あなたが食堂の昼の営業が終わった後、送り迎えしてあげたらどう?」

母親の提案に、父親は「うむ…」と唸った。確かに、ダクレスは昔からの顔なじみだし、村の入り口のすぐ近くだ。それに、食堂の昼の営業が終われば、少しは手が空く時間もある。

「…分かった。そこまで言うなら、考えてやってもいい」

父親は、しぶしぶといった様子で頷いた。エメリアは、その言葉にパッと顔を輝かせた。

「ただし、だ」

父親は、一本指を立てて続けた。

「毎日行くのはダメだ。まだお前は食堂の手伝いも大事な仕事だし、何より無理はさせられない。五日に一度だけだ。それなら、送り迎えもできる」

「五日に一度…!」

エメリアは、少し残念に思ったが、それでも全く行けないよりはずっといい。

「ありがとう、お父さん! お母さんも!」

エメリアは、満面の笑みで両親に感謝を伝えた。


その日の昼の食堂の営業が終わると、エメリアは父親と一緒に、ダクレス鍛冶屋へと向かった。鍛冶屋は、二人の姿を見ると、すぐに笑顔で迎えてくれた。

「やあ、お嬢ちゃん、親父さん。返事はどうだい?」

ダクレスは、期待に満ちた目で二人を見つめた。

「ダクレス親父さん。娘が大変お世話になります。ですが、いくつか条件がありまして…」

父親は、母親との話し合いで決まった条件を伝えた。エメリアがまだ幼いこと、食堂の手伝いがあること、そして五日に一度の頻度で、父親が送り迎えをすること。

ダクレスは、父親の言葉をじっと聞き、大きく頷いた。

「なるほど、親心というやつだな。分かった、その条件で構わない。お嬢ちゃんには、無理のない範囲で、色々なことを見て、触れて、学んでほしいと思っているからな」

「ありがとうございます!」

エメリアは、嬉しくてたまらないといった様子で頭を下げた。

「では、明日から、早速来てくれるかい?」

「はい!」

話はとんとん拍子に進み、明日から鍛冶屋での新しい日々が始まることが決まった。

家に帰り、夕食を済ませた後も、エメリアの興奮は冷めやらなかった。鍛冶屋でどんなものを見られるだろう。どんな道具に触れられるだろう。自分の『改造』スキルが、そこでどう活かせるようになるのか。考えれば考えるほど、胸が高鳴り、布団に入ってもなかなか眠りにつくことができなかった。

(明日が、楽しみだなあ…!)

エメリアは、新しい世界への期待に胸を膨らませながら、ようやく訪れた眠りへと落ちていった。