第24話. 固い壁と、微かな光

ミーア鉱を目にして以来、エメリアの好奇心は尽きることがなかった。五日に一度の鍛冶屋での時間、彼女はダクレスの作業の合間を縫って、ミーア鉱の加工について様々な試みを始めた。
「ダクレスさん、このミーア鉱、熱しても全然赤くならないですね…」
エメリアは、小さなミーア鉱の欠片を火箸でつまみ、炉の最も熱い部分に入れてみた。しかし、鉄が真っ赤に燃え上がるのとは対照的に、ミーア鉱はわずかに表面が熱を帯びるだけで、色が変わることはなかった。
「ああ、だから難しいんだ。普通の炉じゃ、どうにもならない。王都の大きな鍛冶師が使うような、特別な炉でもないと、溶かすことすらできないだろうな」
ダクレスは、慣れた様子で首を振った。彼自身も、過去にミーア鉱の加工に挑戦し、その難しさを痛感していたからだ。
それでもエメリアは諦めなかった。彼女は、小さなハンマーでミーア鉱を叩いてみた。カン、カン、と高い音が響くが、鉄のように形が変わることはなく、むしろハンマーの方が跳ね返されてしまう。ヤスリで削ろうとしても、刃が滑るだけで、ほとんど傷一つ付かない。
(どうすれば、この鉱石を加工できるんだろう…?)
エメリアは、ミーア鉱を前にして、途方に暮れた。これまでの『改造』スキルは、既存の道具や、比較的加工しやすい鉄に対しては効果を発揮してきた。しかし、このミーア鉱は、彼女の知るどの金属とも異なり、まるで意思を持ったかのように、一切の加工を拒んでいるかのようだった。
数週間、エメリアは様々な方法を試したが、どれも徒労に終わった。彼女の心には、少しずつ焦りと、もしかしたら自分にはこの鉱石をどうすることもできないのかもしれない、という諦めにも似た感情が芽生え始めていた。
ある日の夕方、鍛冶屋での作業を終え、トーマスが迎えに来るのを待っていたエメリアは、ぼんやりとミーア鉱の山を眺めていた。その日の作業で、彼女は何度もミーア鉱に触れ、どうにか加工できないかと試みていたが、結局何の進展もなかった。
(この鉱石…どうしてこんなに頑固なんだろう…)
そう考えた時、エメリアの脳裏に、ふと、ある光景が浮かんだ。それは、彼女がまだ幼かった頃、エルアラがパン生地をこねていた時のことだ。最初は硬かった生地が、エルアラの手によって何度もこねられ、叩かれるうちに、次第に柔らかく、そして粘り強く変化していく様子。そして、その生地が、オーブンで焼かれることで、ふっくらとした美味しいパンになる。
その光景と、目の前のミーア鉱が、エメリアの頭の中で不思議な形で結びついた。
(もしかして…熱して叩くだけじゃなくて…もっと、別の何かが必要なんじゃないか?)
その瞬間、エメリアの『改造』スキルが、これまでになく強く反応した。それは、特定の道具に作用する時とは違う、もっと根本的な、そして新しい「ひらめき」だった。まるで、ミーア鉱が彼女に、その加工の秘密を囁いているかのようだった。
エメリアの瞳に、再び希望の光が宿った。加工できないという固い壁にぶつかっていた彼女の心に、微かな、しかし確かな突破口が見えた気がしたのだ。