第85話.王都の変革と、新たな日常

ロッシュ先生、エメリア、そしてベイルの協力体制が実を結んでから、およそ数か月の月日が流れた。王都の郊外には、学校の物置小屋で生まれた浄化装置を巨大化させた、新たな濾過施設が堂々と建っていた。

王都の人々の生活は、この施設が稼働し始めてから、劇的な変化を遂げていた。

「すごいわね、本当に。こんなにきれいな水が、蛇口をひねるだけで出てくるなんて……」

王都に暮らす人々は、かつては貴重だった清潔な水を、今では当たり前のように使えるようになっていた。各家庭には、小型の濾過装置が普及し、井戸水や雨水を濾過して使うことが一般的になっていたのだ。病の流行も減り、街全体に活気が満ちていた。

そして、最も大きな変革を遂げたのは、排水の仕組みだった。これまでは、各家庭の汚水や生活排水は、街の路肩を流れる溝にそのまま垂れ流され、悪臭の原因となっていた。しかし、今ではその溝が排水路として整備され、全ての排水が巨大な濾過施設へとつながっていた。濾過された水は、悪臭も毒性もなくなり、安全に川へと流されるようになっていた。

「まさか、王都の川が、こんなに澄んだ水になるなんてね……」

川沿いの酒場で、男たちがそう言ってグラスを傾ける。かつては汚泥が溜まり、悪臭が漂っていた川は、今では子供たちが水遊びをするほどに清らかさを取り戻していた。


生ごみの処理も、同様に革命的な変化を遂げていた。街のあちこちに設置された生ごみ回収所には、人々が丁寧に仕分けした生ごみが集められる。それらは定期的に生ごみ処理施設へと運ばれ、そこでは**「特別な土」「バクテリウム」**の力が最大限に活用されていた。

処理された生ごみは、良質な農業用の土へと生まれ変わり、王都近郊の農家へと無料で配給されるようになっていた。農家の人々は、その土を使って作物を育て、その結果、野菜の出来も質も、以前とは比べ物にならないほど向上していた。

「この土のおかげで、今年の野菜は本当に甘くて美味しいんだ! 収穫量も前年の倍になったよ!」

市場の八百屋の店主が、誇らしげに客に話しかけている。王都の食卓は、より豊かで健康的なものになっていた。


この王都の劇的な変化は、全てが一人の少女の**「閃き」**と、一人の教師の探求心、そして一人の科学者の技術と信念から始まったものだった。

エメリアは、学校の窓から、活気に満ちた街の様子を静かに眺めていた。道行く人々が笑顔で会話を交わし、子供たちが澄んだ川で無邪気に遊ぶ。彼女の「閃き」が、この世界の常識を少しずつ変え、多くの人々に笑顔をもたらしている。その事実に、彼女はただ、そっと胸をなでおろすのだった。

ロッシュ先生、見てください。私たちの実験、本当に成功したんですね……」

隣に立つロッシュ先生は、大きく頷いた。彼の目には、未来への希望が輝いていた。

「ああ、エメリアさん。君が与えてくれたこの奇跡が、王都を、そしてこの国全体を変えていくだろう。これは、科学の勝利だ。そして、君と私の、素晴らしい旅路の始まりなのだ」

ロッシュ先生の言葉は、この物語がまだ、終わりの始まりにすぎないことを示唆していた。