第99話.予期せぬ知らせと、迫りくる危機

『成分分析』という新たなスキルを手に入れたエメリアは、学園生活をさらに充実させていた。アルベルトとの交流は、彼女の知識を飛躍的に高め、ロッシュ先生との実験から離れていても、彼女の成長は止まらなかった。

「この鉱物には、微量の鉄分が含まれているんだね。だから、雨に当たると少し錆びてしまうのか……」

エメリアは、図書館でアルベルトから借りた鉱物の標本を眺めながら、心の中で**『成分分析』**スキルを発動させていた。すると、彼女の頭の中に、その鉱物の詳細な成分構成が、まるで目の前に描かれるかのように浮かび上がってきた。

(すごい……! これまで知らなかったことまで、全部わかっちゃう!)

新たな能力に興奮しながらも、エメリアは、この力を誰にも知られてはいけないという、声の主の警告を思い出していた。


そんなある日のこと。エメリアは、ロッシュ先生に呼ばれ、久しぶりに物置小屋を訪れた。そこには、ロッシュ先生だけでなく、ベイルも難しい顔をして座っていた。

「エメリアさん、君に悪い知らせがある」

ロッシュ先生は、重い口調で話し始めた。

二人の話は、輝く粒子の研究についてだった。あの粒子は、**『バクテリウム』**を活性化させる触媒となることが判明し、二人はその効果をさらに高めることに成功していた。しかし、その研究成果を発表しようとした矢先、ある異変が起こったという。

「実は、この粒子の研究について、どこからか情報が漏れているようなんだ。それも、王都の行政を牛耳る公爵様の耳に入ってしまったらしい」

ベイルは、苦々しい表情で続けた。

公爵様は、この粒子の力を独占しようとしている。そして、私たちの研究を危険視し、ロッシュ先生と私の薬品分析所への立ち入りを禁じるよう、国王に進言しているそうだ」

エメリアは、その話を聞いて、心臓が凍り付くような感覚を覚えた。彼女がロッシュ先生のために見つけてきた粒子が、かえって彼を危険に晒してしまったのだ。

「そんな……。どうして……?」

エメリアの問いに、ロッシュ先生は静かに答えた。

公爵様は、レナード伯爵様とは思想が違う。この国の未来は、科学ではなく、伝統と魔法によって築かれるべきだと考えている。そして、私たちの研究は、彼にとって目の上のたんこぶなのだろう」

エメリアは、レナード伯爵様から贈られたドレスのことを思い出した。彼が、どれほど科学の発展を願い、自分を後押ししてくれているかを知っていたからこそ、公爵様の行動が許せなかった。

「このままでは、私たちの研究は頓挫してしまう。そして、この国は再び、汚水にまみれた暗い時代へと逆戻りしてしまうかもしれない……」

ロッシュ先生の言葉は、エメリアの胸に突き刺さった。

(どうすればいいんだろう……? 私の『ひらめき』で、この危機を乗り越えることはできないのかな?)

エメリアは、自分の持つ**『改造』スキル』**と、その力を隠さなければならないという警告の間で、激しく葛藤していた。王都の未来を左右する、大きな岐路に立たされていることを、彼女は痛いほど感じていた。