第105話.失敗の連続と、公爵の疑念
オスカー・ブレイクが研究室に監視役として来てから、数ヶ月が経過した。その間、ロッシュ先生とベイルは、**『バクテリウム』**と輝く粒子の研究を続けていた。しかし、その研究は失敗の連続だった。
「ちくしょう、まただ……! どうしてうまくいかないんだ!」
ベイルが、悔しそうに実験器具を叩いた。彼の前には、何度試しても活性化しない**『バクテリウム』**が置かれている。
「公爵様からの追加の資金も、そろそろ底をついてしまうぞ……」
ロッシュ先生は、頭を抱えながら、溜息をついた。
エメリアは、この数ヶ月間、研究にはほとんど参加していなかった。表向きは、学業に専念するため。しかし、それはオスカーの監視の目を欺くためだった。彼女は、ロッシュ先生とベイルと水面下で連携し、公爵を欺くための計画を立てていたのだ。
**『改造』スキル』と『成分分析』を持つエメリアが参加すれば、研究は瞬く間に進展するだろう。しかし、それをすれば、公爵に研究の価値を知られてしまう。そこで、わざと失敗を繰り返すことで、公爵に『バクテリウム』**と輝く粒子の研究は、期待するほどの成果が出ないのではないか、と疑念を抱かせる作戦だった。
オスカーは、この失敗の連続を、毎日律儀に公爵に報告していた。
一方、王都の公爵邸。アルカディアス公爵は、オスカーからの報告書を読み、苛立ちを隠せずにいた。
「もう数ヶ月も経つというのに、進展なしだと? あの愚かな平民どもめ……!」
公爵は、報告書を乱暴に机に叩きつけた。彼の背後には、彼に仕える側近たちが、凍り付くような空気の中で控えている。
「しかし公爵様。オスカーからの報告によれば、ロッシュもベイルも、これまでに見たことのないような実験を繰り返しているようです。もしかしたら、平民の力では、この研究は成功しないのかもしれません」
側近の一人が、恐る恐る口を開いた。
「成功しない、だと? ならば、レナード伯爵は、なぜあんなにもあの平民を庇護する? 何か隠しているに違いない!」
公爵は、その言葉にさらに怒りを燃え上がらせた。彼は、ロッシュ先生たちの研究そのものよりも、レナード伯爵がこの研究を後押ししていることに強い疑念を抱いていた。
「あの平民どもに、これ以上無駄な資金を使うわけにはいかん。オスカーに命じろ。研究の方向性を、我々が指定したものに変えさせろ。そして、この研究に、我が家が雇っている優秀な魔道士を派遣する。科学という怪しげな力よりも、確固たる魔法の力の方が、この研究には必要だろうからな」
公爵は、冷酷な笑みを浮かべた。彼は、科学の力を軽んじ、魔法の力でこの研究を強引に自分たちのものにしようと画策していた。
公爵の新たな一手は、ロッシュ先生たちの研究に、さらなる困難をもたらすだろう。そして、エメリアの**『閃き』と『改造』スキル』**を、公爵の魔道士たちの監視の目から、どうやって隠し通すのか。エメリアたちの孤独な戦いは、ここから、より一層厳しいものになっていく