第110話.エメリアの決意と、レナード伯爵の動き
アルカディアス公爵の代理人が研究室から**『特別な土』を持ち去ってから数日後、エメリアはロッシュ先生から手紙を受け取った。そこには、公爵が魔法使いであるセバスチャン**に、土の魔力無効化の秘密を解明させようとしていることが書かれていた。
(公爵様の狙いは、もう**『バクテリウム』ではない。私が改造**した土の秘密、その力そのものだ……)
エメリアは、手紙を読みながら、顔を青くした。公爵の執着が、研究そのものから、自分の能力の核心へと向かっていることを悟ったのだ。このままでは、いつか自分の秘密が暴かれてしまう。
その夜、エメリアは、再び夢の中であの声の主と出会った。
「君の**『改造』スキル』は、世界の理を書き換える力。それは、この世界の異能である魔法と、相容れないものだ。故に、君が改造**した土は、魔力を無効化する」
「では、私はこのまま、公爵様に私の秘密を暴かれてしまうのでしょうか……?」
エメリアは、不安な面持ちで尋ねた。
「いや。君は、もう次の手を打っている。そして、君の味方もまた、動き出している」
声の主は、そう言って微笑んだ。その言葉に、エメリアはハッとした。
(私の味方……? もしかして……)
エメリアは、公爵の動きを察知し、対策を練っている人物がいることを直感的に理解した。そして、その人物が誰なのかも。
その頃、レナード伯爵は、ベイルからの報告を受けていた。
「公爵は、我々の研究から手を引き、エメリアが改造した土の秘密を解き明かすことに執着しているようです。魔道士を雇い、秘密裏に調査を進めています」
ベイルは、厳しい表情でそう報告した。
「そうか……。公爵は、とうとう科学の力を、個人の野心のために利用しようとしている。そして、エメリア君の才能が、その標的になってしまったか」
レナード伯爵は、深く溜息をついた。彼は、エメリアの才能が公爵の目に留まることを恐れていた。しかし、その懸念が現実のものとなってしまった。
「ベイル。公爵の不正を暴く準備を急げ。そして、アードレ公爵と連絡を取り、公爵の動向を常に監視させろ。我々は、公爵が公然と不正を働く瞬間を待つ」
レナード伯爵は、冷徹な表情でそう命じた。
「しかし、それではエメリア嬢が危険に晒されることになります。公爵は、彼女の才能に気づいています。彼女の身の安全をどう守るおつもりですか?」
「それは……」
レナード伯爵は、言葉を詰まらせた。彼の計画は、エメリアの身を危険に晒す可能性があった。しかし、公爵の野望を阻止し、王都の未来を守るためには、避けて通れない道だと信じていた。
エメリアは、自分の能力が、自分だけでなく、大切な人々の運命を左右することを悟った。彼女は、ロッシュ先生やベイル、そしてレナード伯爵のためにも、この困難な戦いに立ち向かうことを、改めて心に誓った。