第120話.学業と、新たな友人との語らい

アルカディアス公爵の失脚後、エメリアの学園生活は、ようやく本来の平穏を取り戻していた。放課後、彼女はいつものように図書館へと向かい、リリアに挨拶を済ませると、アルフレッドセシルと共に、熱心に勉強に励んだ。彼らとの語らいは、公爵との戦いの緊張から彼女を解放してくれる、貴重な時間となっていた。

しかし、彼女の隣には、以前にも増してアルベルトの姿があった。アルカディアス公爵の不正を暴くきっかけとなった**『魔法の病』**の件以来、彼との間には、言葉だけでは語り尽くせない、特別な信頼関係が築かれていた。

「エメリアさん。君がロッシュ先生の研究に協力していると聞いていたが、まさか、公爵様が仕掛けた**『魔法の病』を治すほどの『閃き』**を持っているとは……」

アルベルトは、静かにそう言った。彼の表情には、今もなお、エメリアの能力に対する驚きと、深い敬意が混じり合っていた。

エメリアは、**『改造』スキル』**の秘密を守るため、謙虚に答えた。

「私の力は、そんな大したものではないわ。たまたま道具屋で買った砂が、その力を持っていただけで……。ロッシュ先生から教えてもらった科学の知識と、少しの**『閃き』**があったから、偶然それを活かせただけなの」

彼女の言葉は、まるで幸運な偶然が重なったかのように聞こえた。しかし、アルベルトは、その言葉を真に受けることはなかった。彼は、エメリアの言葉の裏に隠された、真実の力を感じ取っていた。それは、この世界の常識では説明できない、何か異質な力。しかし、その力は、今、彼の目の前で、彼の家族を救ってくれたのだ。

「君の**『閃き』**は、僕の父を、そして僕の家族を救ってくれた。公爵様の不正を暴くきっかけになったのも、君の勇気のおかげだ。本当に、ありがとう」

アルベルトは、深々と頭を下げた。彼の瞳には、偽りのない感謝の気持ちが宿っていた。彼は、エメリアの持つ力を問うことはしなかった。ただ、彼女が家族を救ってくれたという事実と、彼女への深い友情を心に刻んでいた。

エメリアは、戸惑いながらも、彼の言葉に微笑んだ。

(**『改造』スキル』**を隠し通すのは、これからも大変だろう。でも、この力が、こうして誰かを助けることができたなら、それだけで……)

エメリアは、アルベルトとの会話を通じて、自分の能力を秘密にするという孤独な葛藤と、その能力で誰かを救うことができるという喜びの間で揺れ動いていた。

図書館の窓から差し込む夕日が、二人の友情を静かに照らし出していた。王都の混乱が収束し、新たな時代が始まろうとしている今、エメリアは、アルベルトという大切な友人を得て、また一歩、成長を遂げた。