第145話.王都の期待と、エメリアの葛藤
エメリアが**『制御魔法陣』を生み出し、エラのような才能ある若者たちの助けになったという噂は、王都の貴族社会に大きな反響を呼んだ。エメリアの『閃き』と、ロッシュ先生の研究の成果である『バクテリウム』**活性化と魔力吸収の魔法陣は、すでに王都の地下水路に試験的に設置されることが決まっていた。
「エメリア様のおかげで、王都の衛生問題が解決するかもしれない」 「それに、魔力災害の心配もなくなるなんて……」
そんな声が、貴族たちの間で囁かれるようになった。エメリアは、自分の力が多くの人に希望を与えていることを実感していた。しかし、彼女の心の中には、喜びと同時に、ある種の葛藤が生まれていた。
放課後、いつものようにアルベルトと共に図書館で研究をしていると、エメリアはふと、手を止めた。
「どうしたんだい、エメリアさん? 何か気になることでも?」
アルベルトが、心配そうに尋ねた。
「ええと……。私の力は、本当にこの国の未来を良い方向に導くのかって、考えていたの」
エメリアは、そう言って俯いた。
「どういうことだい?」
「私、公爵様との戦いで、魔力という力が、どれほど危険なものかを知ったわ。私の**『閃き』は、確かに魔法の力を強め、安全に使えるようにした。でも、それは、使い方を間違えれば、また誰かを傷つけてしまう力でもある……。もし、私の『閃き』**が悪用されたら……」
エメリアの言葉に、アルベルトは静かに耳を傾けた。
「私の力は、ただの研究に留めておくべきなんじゃないか、って。叙爵して、領主として責任を負うなんて、私には重すぎるんじゃないかって、時々思うの」
エメリアは、心の中にある不安を、アルベルトに打ち明けた。彼女は、アルカディアス公爵との戦いを通じて、力の持つ恐ろしさを知っていた。だからこそ、自分の力が、再び争いの火種になることを恐れていたのだ。
アルベルトは、そんなエメリアの言葉に、優しく微笑んだ。
「エメリアさん。君の力は、たくさんの人を救うために使われている。それは、紛れもない事実だよ。それに、君の**『閃き』**は、誰かを傷つけるためのものじゃない。誰かを守るためのものだ」
彼の言葉は、エメリアの心に温かく響いた。
「それに、僕たちや、ロッシュ先生、アードレ公爵様も、君のそばにいる。君が一人でその重荷を背負う必要はないんだ」
アルベルトは、そう言ってエメリアの手を優しく握った。
エメリアは、彼の言葉に背中を押され、少しだけ気持ちが楽になった。彼女は、自分の力を信じ、前向きに進むことを決意した。しかし、彼女の心の中にある葛藤は、まだ完全に消えたわけではなかった。