第156話.家族の暮らしと、それぞれの道

新たな街づくりの指揮を執るエメリアは、子爵邸で家族と共に暮らしていた。子爵邸の豪華な暮らしは、これまでの生活とはまるで違う。広い庭、いくつもの部屋、そして常に清潔に保たれた空間。しかし、両親にとっては、それがかえって居心地の悪さにつながっていた。

ある夕食の後、父が意を決したように切り出した。

「エメリア、お前のおかげでこんな立派な屋敷に住まわせてもらって感謝しているよ。だが、俺たちは昔から飯屋しかやってこなかった。豪華な料理もいいが、やっぱり俺たちは、みんなの笑顔が見える場所で料理を作っていたいんだ」

母も、父の言葉に頷いた。

「ええ、エメリア。子爵邸の料理は確かに素晴らしいけれど、私たちには合わないわ。自分たちの手で温かい料理を作って、村のみんなに『おいしかったよ』って言ってもらうのが、何よりの幸せなの」

エメリアは、両親のその正直な気持ちを、心から理解した。

「わかったわ、お父さん、お母さん。子爵邸の近くに、以前よりも大きく、清潔な食堂を建てましょう。そして、そこを、村の新しい中心にしましょう」

エメリアの提案に、両親は安堵と喜びの表情を浮かべた。新しい食堂は、街づくりの一環として、鍛冶屋ダクレスや職人たちの手で、すぐに建設が始まった。

そして、弟のルークは、エメリアとは異なる道を歩み始めていた。彼は、エメリアが領主として街づくりに奮闘する姿を間近で見て、彼女の力になりたいと強く思うようになったのだ。

「お姉ちゃん、僕も貴族学校へ行きたい。お姉ちゃんの隣で、お姉ちゃんの補佐をしたいんだ!」

そう語るルークの瞳は、これまでにないほど真剣だった。エメリアは、彼のまっすぐな想いに胸を熱くした。

「ルーク……ありがとう。でも、貴族学校での勉強は、想像以上に大変よ」

「それでもいいんだ! お姉ちゃんがすごいって言われるたびに、僕もすごく嬉しかった。だから、僕も頑張って、いつかお姉ちゃんの役に立ちたい!」

アードレ公爵に頼んで、ルークの貴族学校への入学を手配した。旅立つ前日、エメリアはルークを抱きしめ、優しく囁いた。

「わかったわ、ルーク。でも、無理はしないでね。いつでも帰ってきていいから」

「うん! お姉ちゃん、いってきます!」

ルークは、希望に満ちた顔で旅立っていった。

一方、幼馴染のミアは、エメリアが建てた街の新しい学校に通い始めていた。彼女は、エメリアが設計した給水施設や、下水道の仕組みに強い興味を抱いていた。

「エメリア、すごいよ! この学校、蛇口をひねると、いつでもきれいな水が出てくるんだね!」

目をキラキラさせて話すミアの言葉に、エメリアは心から嬉しくなった。

エメリアは、食堂で温かい料理を作る両親、新たな道へ進むルーク、そして新設された学校で目を輝かせるミアの姿を見て、改めて自分の使命を再確認した。彼女の**『閃き』**は、ただの科学や魔法ではなく、大切な人々の暮らしと未来を豊かにするための力なのだと。その確信を胸に、エメリアは街づくりにさらなる情熱を注いでいった。