第163話.絶体絶命と、最後の希望

エメリアは、バルドと名乗る老魔道士の言葉に、全身から血の気が引くのを感じた。彼女の護衛である騎士は、バルドの言葉通り、別の相手をしているのだろうか。地下水路の奥から聞こえてくる、剣戟と何かが砕ける音は、彼女の不安を煽るばかりだった。

「なぜ、こんなことを……」

エメリアは、疲労困憊で、立っているのがやっとの状態だった。彼女に残された魔力は、わずかしかない。

「なぜ、だと? 我々貴族派の理想は、この国の血筋と伝統を守ること。魔力という神聖な力を、貴様のような平民が弄ぶなど、言語道断だ! 王都の魔力を一度暴走させ、王族や貴族の権威を失墜させ、新たな秩序を築く。それが我々の計画だった」

バルドは、狂気に満ちた目でエメリアを睨みつけた。彼の瞳の奥には、エメリアの才能に対する嫉妬と、深い憎しみが渦巻いていた。

「あなたたちがやっていることは、ただの破壊よ! 多くの人々が苦しんでいるのに!」

「黙れ! 貴様は、我々の邪魔をする! そして、その**『閃き』**とやらも、ここで終わらせてやる!」

バルドは、そう叫ぶと、掌に黒い魔力を凝縮させ、エメリアに向かって放った。エメリアは、その攻撃を避ける力も、防御する力も残っていなかった。

「……っ!」

エメリアは、目を閉じ、死を覚悟した。その時、彼女の目の前に、一人の騎士が飛び込んできた。

「子爵様! お逃げください!」

それは、彼女の護衛だった騎士、エリックだった。彼は、バルドが放った攻撃を、その身で受け止めた。騎士の鎧は砕け散り、彼の身体は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

「エリックさん!」

エメリアは、絶叫した。しかし、エリックは、血を吐きながらも、力なく微笑んだ。

「子爵様は……、この国の希望……。どうか、ご無事で……」

エリックは、そう言い残し、意識を失った。

エメリアの心に、怒りがこみ上げてきた。そして、その怒りは、彼女の体内で眠っていた、新たな力を呼び覚ました。

『レベルアップ』

エメリアの頭の中に、再び声が響いた。彼女のスキルは、限界を超え、さらなる高みへと達した。

『魔法改造』『究極改造(アルティメット)』 『詳細解析(アナライズ)』『真理解明(トゥルース)』 『洞察(インサイト)』『未来予測(フューチャー)』

そして、彼女の内に秘められた、もう一つのスキルが覚醒した。

『生命創成(ライフクリエイト)』

エメリアは、バルドを睨みつけ、力強く言った。

「あなたたちの理想は、力で人々を支配すること。でも、私の理想は違う。私の理想は、みんなが笑顔で暮らせる、そんな世界をつくることよ! そのために、私は、絶対に負けられない!」

エメリアの瞳には、怒りと悲しみ、そして、この国の未来を守るという、強い決意が宿っていた。彼女は、エリックの命を救うため、そして、この国の未来を守るため、バルドとの最後の戦いに挑むことを決意した。