第167話.街を守る新たな魔法陣
王都から戻ったエメリアは、貴族派の脅威がまだ終わっていないことを確信していた。彼女は、街を、そして大切な人々を守るため、新たな対策を講じる必要性を感じていた。
「ガイウスさん、街の入り口での警戒を、さらに厳しくしましょう。そして、街に危険を及ぼす者を、事前に察知できるような仕組みを作りたいのです」
エメリアの提案に、ガイウスは真剣な表情で頷いた。
「しかし、エメリア子爵様。街に来る人々を一人ひとり調べるには、あまりにも多くの人手が必要です。それに、善良な人々まで疑いの目で見ることになりかねません」
ガイウスの懸念はもっともだった。
「ご心配には及びません。私が、新しい魔法陣を作ります。その魔法陣は、街を訪れた人々に危険な意図があるかを察知することができます」
エメリアは、そう言って、魔法陣の設計図を書き始めた。それは、街の門に埋め込むための、複雑な構造を持つ魔法陣だった。この魔法陣は、一見するとただの装飾に見えるように、**『隠蔽(インビジブル)』**の魔法陣で覆い隠されている。その能力の核心は、エメリア自身の持つ、物事の本質を見抜く力に由来するものだった。
この魔法陣の前を通る人々は、エメリアの特別な魔法によって、その心に危険な意図が潜んでいるかを感知される。もし、犯罪者や貴族派の人間など、街に危険が及ぶ意図を持つ者であれば、魔法陣は反応し、音を鳴らす仕組みだ。
「これなら、人々に気づかれることなく、街の安全を守ることができます」
エメリアは、一晩かけて魔法陣を完成させ、街の門に設置した。
翌日、街の門には、ディランが率いる**『青の騎士団』**の精鋭たちが配置された。彼らは、魔法陣が音を鳴らしたときに、速やかに対応するための準備を整えていた。
数日後、一人の商人が街の門をくぐろうとした時、魔法陣が「キーン」という、甲高い音を鳴らした。
「止まれ!貴様、何者だ!」
騎士たちが、すぐに男を取り囲んだ。男は、驚きと恐怖の表情を浮かべていた。
「私は、ただの商人です!何の罪もない!」
男は、必死に訴えた。しかし、騎士たちは、その言葉を信じなかった。魔法陣は、彼の心に、街の治安を乱すような、悪意ある意図が潜んでいることを示していたのだ。
エメリアが作り上げた魔法陣は、街の安全を守る、新たな希望となった。しかし、その魔法陣の存在と、その能力の真価は、まだ誰にも知られていない。エメリアの孤独な戦いは、静かに、そして確実に、続いていく。