第171話.ルークの視点と、帝国の謀略
エメリアの都市が繁栄を謳歌する一方で、隣国クルダン帝国からの干渉は日に日に強まっていた。エメリアは、この新たな脅威に対し、内政と防衛の両面から対策を講じ始めた。
子爵邸の執務室では、ガイウスとルークが、クルダン帝国との貿易記録を精査していた。ルークは、貴族学校で学んだ知識を活かし、膨大なデータを前に、冷静な分析を続けていた。
「ガイウスさん、やはりクルダン帝国は、我々の特産品である農作物や工業製品を、不当に安い価格で買い叩こうとしています。これは、彼らが経済的な打撃を与え、我々の都市の力を削ごうとしている証拠です」
ルークは、そう言って、一枚の書類をガイウスに差し出した。そこには、クルダン帝国の商人たちが、裏で結託し、価格操作を行っている証拠が記されていた。
「これほどの分析を、貴族学校の学生が……。ルーク様、あなたの才能は、エメリア子爵様に劣らぬものですな」
ガイウスは、ルークの能力に感嘆の声を漏らした。
「いえ、僕なんてまだまだです。お姉ちゃんが作った、この街の未来を守るために、僕も頑張らないと」
ルークは、そう言って、再び書類に目を落とした。
その頃、エメリアは、ディランと共に、城壁の上から街の様子を眺めていた。
「ディランさん、クルダン帝国との小競り合いが起こった場合、私たちの騎士団だけで、この街を守りきれますか?」
エメリアの問いに、ディランは真剣な表情で答えた。
「エメリア子爵様が作ってくださった武器と、この頑丈な城壁があれば、攻めてくる敵を撃退することは可能です。しかし、クルダン帝国は、王国とは比べ物にならないほどの大軍を擁しています。もし、本気で攻めてこられた場合、防衛は困難を極めるでしょう」
「やはり……」
エメリアは、黙って頷いた。彼女の**『閃き』**は、街のインフラや防衛設備を向上させたが、軍事的な衝突を完全に防ぐことはできない。
「王都に援軍を求めるべきでしょうか?」
ディランがそう尋ねると、エメリアは首を横に振った。
「いえ、王都に頼ることはできません。王国の貴族派が、クルダン帝国に亡命したという噂は、本当だと思います。彼らが、王都の情報をクルダン帝国に流している可能性も高い。王都に頼れば、かえって危険を増すことになるでしょう」
エメリアの**『洞察(インサイト)』**は、王都の闇と、クルダン帝国の思惑を正確に読み取っていた。
エメリアは、街の防衛体制を強化するため、新たな魔法陣の構想を練り始めた。それは、街全体を覆う、巨大な**『防御魔法陣』**だった。
「この都市は、私たちが、自分たちの力で守らなければならない。誰にも頼らず、この街の平和を、この手で守り抜くわ」
エメリアの瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。