第184話.伯爵の帰還と、帝国の新たな刺客
エメリアは、伯爵の爵位を授けられ、グランツ伯爵として故郷の都市へ帰還した。街の人々は、英雄として彼女を迎え、盛大な祝賀会が開かれた。しかし、エメリアの心には、王都で聞いた、貴族派の動向と、クルダン帝国の新たな動きが重くのしかかっていた。
子爵邸の執務室に戻ったエメリアは、ガイウス、ディラン、ルークを招集した。
「皆、ただいま。そして、ありがとう。あなたたちのおかげで、この街は救われたわ」
エメリアは、心からの感謝を込めて、三人に頭を下げた。
「子爵様、とんでもないことです。我々は、ただ、子爵様のお力をお借りしたにすぎません」
ガイウスは、そう言って、深々と頭を下げた。
「そうよ、お姉ちゃん!僕たちは、お姉ちゃんの街を守るために、これからも頑張るよ!」
ルークは、そう言って、力強く頷いた。
「では、早速ですが、今回のクルダン帝国の敗北について、今後の対策を話し合いましょう」
エメリアは、そう言って、本題に入った。
「国王陛下からは、貴族派の動きについて、何も情報はありませんでしたか?」
ガイウスが、慎重な口調で尋ねた。
「ええ。国王陛下も、貴族派がクルダン帝国に亡命したという噂は知っているようですが、確たる証拠がないようです。それに、王都の貴族たちは、私を新たな脅威と見なしているようです。貴族派が、私を陥れるために、新たな謀略を企てる可能性は十分にあります」
エメリアの言葉に、一同は顔を曇らせた。
「しかし、我々はクルダン帝国に勝利しました。もはや、我々の街に手出しできる者などいないでしょう」
ディランが、そう言って、自信に満ちた表情を浮かべた。
「いいえ、ディランさん。相手は、武力だけでなく、知恵を使ってくるでしょう。クルダン帝国の貴族たちが、私の**『閃き』**を危険視しているように、王都の貴族たちも、同じように考えています」
エメリアは、そう言って、ルークに視線を向けた。
「ルーク、貴族学校で、何か気になることはなかった?」
「うん。貴族学校に、クルダン帝国から留学に来ていた貴族がいたんだ。彼は、僕たちの街の発展に、異常なほど関心を持っていたよ」
ルークの言葉に、エメリアは背筋が凍るのを感じた。
「その貴族の名は?」
「ルディウス。若くして、帝国の若き英雄として知られているらしい。彼は、僕たちの街の弱点を、武力ではなく、別の方法で探っているようだった」
ルークの言葉は、エメリアの**『閃き』を刺激した。彼女の頭の中で、クルダン帝国の敗北から、新たな将軍ルディウスの台頭、そしてルーク**が目撃した彼の行動が、一本の線で繋がっていく。
(ルディウス……。彼は、この街の防御の隙を探っているのではなく、この街の**『核』**を、探しているのかもしれない……)
エメリアの心に、新たな脅威の影がつきまとっていた。彼女の戦いは、武力と武力ではない、知恵と知恵の戦いへと、その様相をさらに複雑に変化させていく。