芹沢鴨の異世界日記 第十二話


嘆きの騎士の圧倒的な一撃を紙一重でかわした俺は、地面から立ち上がり、剣を構え直した。アルベルトが絶望的な表情で俺を見つめている。

「芹沢、無理だ! 撤退するんだ!」

アルベルトの言葉はもっともだった。力と力のぶつかり合いでは、俺に勝ち目はない。嘆きの騎士の剣の一撃は、まるで巨大な岩が落ちてきたかのような重みと破壊力を持っていた。

だが、俺は戦わなければならない。

俺は、新撰組局長・芹沢鴨だ。恐怖に怯え、敵に背を向けるような真似は、俺の武士の魂が許さない。

それに……。

「馬鹿を言うな、アルベルト。勝てぬ相手など、いない!」

俺は、嘆きの騎士に向かって駆け出した。

嘆きの騎士は、再びその巨大な剣を振りかぶった。その動きは緩慢だが、破壊力は絶大だ。

俺は、嘆きの騎士の剣の軌道を、目と身体で正確に捉えた。

そして、剣が振り下ろされる、その瞬間。

俺は、地面を蹴り、身体を低くした。

「『剣術融合』……流刀!」

俺は、北辰一刀流の技の一つである『流刀』を、この世界の剣と融合させた。それは、敵の攻撃の勢いをいなし、その力を利用して反撃に転じる、柔の技だ。

俺の剣は、嘆きの騎士の巨大な剣と交わると、その衝撃を逃がすように滑らせ、嘆きの騎士の脇腹へと滑り込ませた。

ギィィン!

甲高い金属音が、洞窟内に響き渡る。

俺の剣は、嘆きの騎士の漆黒の甲冑に、僅かな傷をつけただけだった。だが、その一撃は、嘆きの騎士の動きを、一瞬だけ止めることに成功した。

「今だ、アルベルト!」

俺は、叫んだ。

アルベルトは、俺の言葉に驚きながらも、すぐに反応した。

「くそっ、わかった! 『フレイムボルト』!」

アルベルトが、叫びながら手をかざすと、その手から、小さな火の玉が飛び出し、嘆きの騎士の頭部に直撃した。

ボォン!

火の玉は、嘆きの騎士の甲冑を焦がし、その隙間から漏れ出す紫色の光を、一瞬だけ弱めた。

「ふん。悪くない」

俺は、そう呟いた。

俺の剣術は、嘆きの騎士の身体を完全に破壊することはできない。だが、その動きを止め、弱点を作り出すことはできる。

そして、アルベルトの魔法は、その弱点を突くことができる。

俺は、再び嘆きの騎士に向かって駆け出した。

嘆きの騎士は、火の玉の攻撃に、一瞬だけ怯んだようだった。だが、すぐに俺に狙いを定め、盾を構えた。

その盾は、巨大なだけでなく、表面に禍々しい模様が描かれている。

「……なるほど。厄介だな」

俺は、そう呟いた。

正面からの攻撃は、盾で防がれる。

ならば……。

俺は、嘆きの騎士の周囲を、まるで蝶のように舞いながら、剣を振るった。

「『剣術融合』……円月斬り!」

俺の剣は、円を描くように、嘆きの騎士の周囲を斬りつけた。

ギィィィン!

円月斬りは、嘆きの騎士の盾を叩き、その隙間から、嘆きの騎士の背後へと回り込んだ。

そして、その背後から、俺は一撃を放つ。

「『剣術融合』……一の太刀!」

俺の剣は、光を放ち、嘆きの騎士の首筋を、正確に捉えた。

ギィィィン!

嘆きの騎士の首筋に、深い傷が入った。

だが、それでも、嘆きの騎士は倒れない。

俺は、息を荒くしながら、嘆きの騎士から距離を取った。

「……しぶとい奴だ」

だが、俺の顔には、笑みが浮かんでいた。

この戦いは、まだ終わっていない。