芹沢鴨の異世界日記 第十七話


王都グランベルへの帰り道、俺はアルベルトから聞いた「生命系スキル」という言葉を反芻していた。自分の命を削って力を引き出す……。それは、かつて新撰組局長として、数多の死線を潜り抜けてきた俺の生き様と、どこか似ている気がした。

「……ふん。俺らしい、といえば俺らしいスキルだな」

俺は、そう呟くと、腰に下げた剣を軽く叩いた。

アルベルトは、そんな俺の様子を見て、少し複雑な表情を浮かべていた。

「おい、芹沢。あんまり、その『怒り』ってスキルは使うなよ。本当に、お前が死んでしまいそうで、怖くなる」

その言葉に、俺は初めて、誰かが俺の命を心配してくれているという、奇妙な感覚に襲われた。新撰組では、誰もが俺の死を望んでいた。いや、俺自身が、いつ死んでもいいと、どこかで思っていた。

だが、今は違う。

俺には、この世界で初めてできた、仲間がいる。

「心配するな、アルベルト。俺は、お前との約束を破ったりはしない」

俺は、そう言って、アルベルトに笑いかけた。

アルベルトは、その言葉に、安堵したような笑顔を見せた。

「おう! そうこなくっちゃな!」

俺たちは、夕焼けに染まる道を、たわいもない話をしながら歩いていった。

王都グランベルに戻ると、俺たちはまず、冒険者ギルドへと向かった。

受付の女性は、俺たちの姿を見て、驚愕の声を上げた。

「あ、あなたたち! 『嘆きの洞窟』へ行ったと聞いて、もう戻ってこないかと思っていました!」

「ふん。馬鹿を言うな。この程度で、俺たちが死ぬわけないだろうが」

俺は、そう言って、依頼の完了を告げた。

「そ、そうですか……。では、こちらが依頼報酬です」

受付の女性は、震える手で、俺たちに硬貨の詰まった袋を差し出した。そして、俺たちは、その場で『薬草の王』を換金した。

『薬草の王』は、その希少性から、とんでもない高値で取引された。

俺たちの手元には、これまで見たこともないような、莫大な金が残った。

「すげえな! これで、当分は、豪遊できるぜ!」

アルベルトは、嬉しそうに硬貨をジャラジャラと鳴らした。

だが、俺は、その金を見て、別のことを考えていた。

俺の『スキル作成』は、まだレベル1だ。そして、『居合』や『剣気』、『剣術融合』も、まだレベルは低い。

この金を、俺のスキルを上げるために使えないだろうか?

「……なぁ、アルベルト」

俺は、アルベルトに尋ねた。

「この街に、スキルを強化してくれるような場所はあるのか?」

俺の問いに、アルベルトは少し考えてから答えた。

「スキルを強化、か。それは、いくつかの方法がある。一つは、魔物との戦闘で経験を積むこと。だが、それだけじゃない」

「……他にもあるのか?」

「ああ。この街には、スキルを専門に研究している『賢者の塔』という場所がある。そこに行けば、スキルを強化するための『スキルポーション』というものを作ってもらえるかもしれない」

『賢者の塔』。

スキルを強化するための場所。

俺は、その言葉に、胸が高鳴るのを感じた。

「よし、決まったな。アルベルト。明日、その『賢者の塔』とやらに行くぞ」

「おう! わかったぜ、芹沢!」

俺たちは、冒険者ギルドを後にした。

俺は、この金を使って、俺の剣を、どこまで高めることができるのか。

そして、その先に、俺の生きる意味を見つけ出すことができるのか。

俺は、この世界で、再び、剣の道を歩み始める。