芹沢鴨の異世界日記 第四十四話


銀色の髪を持つ女性の言葉は、まるで澄んだ泉のように俺の心に響いた。彼女は、岩石のゴーストが、単なる岩石と怨念の集合体ではなく、その両方の特性を持つ特殊な魔物だと教えてくれた。俺たちの物理的な攻撃は、怨念には有効でも、再生する岩石の身体には決定的な一撃とはならない。そして、アルベルトの光魔法は、怨念を祓うことはできても、岩石を砕くことは難しいだろう。

「……お前は、一体、何者だ?」

俺は、再び彼女に問いかけた。彼女の言葉は理に適っており、その瞳に宿る知性は、ただの冒険者ではないことを物語っている。

「私はリリス。この巨人の墓場の守護者です」

リリスと名乗る女性は、そう言って微笑んだ。その表情には、一切の敵意がない。

「このゴーストは、かつてこの地で争い、斃れた巨人たちの怨念が、岩石に宿ったものです。彼らは、ここを安息の地としたいと願っており、外から来た者、特に強い魔力や闘気を持つ者には、容赦なく襲いかかります」

「じゃあ、俺たちは、どうすればいいんだ?」

アルベルトが、焦りの声を上げた。

リリスは、俺とアルベルトを交互に見つめ、静かに答えた。

「ゴーストを討伐するには、二つの力を同時に使う必要があります。一つは、怨念を祓う力。そしてもう一つは、岩石を破壊する力です」

俺は、リリスの言葉に、すぐに反応した。

「つまり、アルベルトの光魔法で怨念を祓い、俺の剣で岩石を破壊する、というわけか?」

「ふん。だが、それだけでは、俺たちの剣は、再生する岩石の身体に、傷を負わせることしかできない。決定的な一撃にはならないだろう」

俺の言葉に、リリスは、静かに頷いた。

「その通りです。だからこそ、あなたたちの力は、融合させる必要があります」

リリスは、俺の持つ伝説の剣と、アルベルトの杖を、交互に指差した。

「あなたの剣には、星辰の力が宿っている。そして、彼の杖には、治癒の光が宿っている。その二つの力を、一つにすることで、岩石と怨念、その両方を同時に破壊する、**『聖岩剣』**を創造することができるでしょう」

「『聖岩剣』……?」

俺は、その言葉に、胸が高鳴るのを感じた。

「しかし、どうやって……?」

アルベルトが、戸惑いの表情で尋ねた。

「私の力を使えば、あなたたちの力を、一時的に融合させることができます。しかし、それは、非常に危険な賭けです。失敗すれば、あなたたちの身体に、大きな負荷がかかるでしょう」

リリスの言葉に、俺は迷うことなく頷いた。

「面白い。やってみよう。俺は、魔王を倒すためなら、どんな危険な賭けでも、受けて立つ」

俺は、そう言って、伝説の剣を構え、アルベルトに視線を送った。アルベルトは、俺の言葉に、少しだけ緊張した表情を浮かべたが、すぐに、力強く頷いた。

「おう! 任せとけ!」

リリスは、俺たちの決意を見ると、静かに目を閉じ、祈りを捧げ始めた。

その瞬間、リリスの身体から、淡い光が放たれ、その光は、俺とアルベルトの身体を包み込んだ。

「うおおおおおおおお!」

俺は、叫んだ。

俺の心臓に刻まれた『スキル作成』のスキルが、まるで、新しい命を吹き込まれたかのように、光を放ち始めた。

《スキル『スキル作成』が、リリスの魔力に触れたことで、新たなスキルを創造します。》 《スキル作成:『聖岩剣』、完了。》

俺の剣に、アルベルトの光と、リリスの魔力が、まるで吸い込まれるかのように、纏わりついた。俺の剣は、これまでとは全く違う、神聖な輝きを放っている。

「……これが、俺たちの、新たな力だ」

俺は、そう呟くと、岩石のゴーストに向かって、駆け出した。