第18話. 鍛冶屋での初めての一日

翌朝、エメリアは目を覚ますとすぐに布団を飛び出した。今日は、待ちに待った鍛冶屋のダクレスの店での最初の日だ。食堂の手伝いをいつも以上に手早くこなし、昼食の準備も手伝った。ロランもルークも、そんなエメリアの様子を見て、どこか楽しそうにしていた。

昼の食堂の営業が終わり、片付けを手伝い終えると、エメリアは父親と一緒に鍛冶屋のダクレスの店へと向かった。村の入り口近くにある鍛冶屋の扉をくぐると、熱気と金属の匂い、そしてカンカンという規則正しい音が迎え入れた。

「やあ、約束通り来てくれたね、お嬢ちゃん!」

鍛冶屋のダクレスが、炉の前で真っ赤に熱した鉄を叩きながら、笑顔で迎えてくれた。その顔には、汗が光っている。

「はい! よろしくお願いします!」

エメリアは、少し緊張しながらも元気に挨拶した。

「よし、まずはお前の席だ」

鍛冶屋のダクレスは、店の奥にある小さな作業台を指差した。そこは、普段彼が簡単な修理作業をするための場所らしく、使い込まれた道具がいくつか並んでいた。

「ここでお前には、まず道具の手入れの仕方から覚えてもらおう。この店で使う道具は、どれも俺たちの腕の証だ。大切に扱わねえとな」

そう言って、鍛冶屋のダクレスはいくつかの種類のヤスリや、油の入った壺、布などをエメリアの前に置いた。最初は小さなハンマーの表面を磨くことから始まった。エメリアは、教えられた通りにヤスリをかけ、その後油を塗って布で拭いていく。

(わあ、こんなに道具って種類があるんだな…!)

前世の知識では、道具は大量生産されたものがほとんどだったが、ここにあるのはどれも職人の手によって丁寧に作られ、使い込まれたものばかりだ。一つ一つの道具に、職人の魂が宿っているように感じられた。

鍛冶屋のダクレスは、時折エメリアの様子を見に来ては、道具の正しい使い方や、金属の種類について話してくれた。

「このハンマーはな、硬い鉄を叩くときに使うんだ。あれは柔らかい銅を伸ばすときに使う。それぞれに合った道具を使うのが、良い仕事の基本だ」

彼は、炉で鉄を熱し、ハンマーで叩いて形を変えていく様子を、エメリアに熱心に説明してくれた。真っ赤に燃える鉄が、叩かれるたびに形を変え、火花を散らす様子は、エメリアにとって全てが新鮮で、興味津々だった。

エメリアは、その間も手を動かし続け、道具の手入れに没頭した。一つ一つの道具を磨き上げていくうちに、彼女の『改造』スキルが微かに反応するのを感じた。

(このハンマー、もっと軽くて丈夫にできないかな…? このヤスリ、もっと削りやすくなるといいのに…)

心の中でそう願うたびに、手にした道具がほんのわずかに、しかし確かに、手に馴染んでいくような感覚があった。それは、以前椅子を直した時に感じた、スキルが「アップした」という感覚とは少し違う、「スキルが道具に作用している」ような不思議な感覚だった。

あっという間に時間は過ぎ、夕方になった。父親が迎えに来ると、エメリアは名残惜しそうに手入れしていた道具を置いた。

「どうだった、お嬢ちゃん。疲れただろう?」

「いいえ! とても楽しかったです! 色々なこと、教えてもらいました!」

エメリアは、目を輝かせながら答えた。鍛冶屋のダクレスも満足そうに頷いた。

「それはよかった。今日はありがとうな。また五日後に待ってるよ」

家路につく途中、エメリアは今日見たこと、聞いたこと、感じたことを父親に興奮気味に話した。父親は、そんな娘の様子を見て、安心したように微笑んでいた。

その夜、エメリアは、磨き上げたハンマーの感触や、熱い鉄の匂いを思い出しながら、ぐっすりと眠りについた。鍛冶屋のダクレスの店での新しい学びが、彼女の『改造』スキルをどう成長させていくのか。エメリアの胸には、新たな期待が膨らんでいた。