第22話 鋤の真価と広がる波紋

数日後、鍛冶屋のダクレスの元へ、あの農夫が再びやってきた。その日は、エメリアが鍛冶屋のダクレスの店を訪れる日ではなかった。しかし、食堂を切り盛りするエメリアの父親トーマスが、追加のL字金具の注文で店に立ち寄っていたため、話の成り行きを耳にすることができた。

農夫の顔には、前回以上に興奮と驚きの色が浮かんでいた。

「ダクレスさん! ダクレスさん! 信じられない!」

農夫は、開口一番そう叫んだ。

「どうした、そんなに慌てて。あの鋤のことかい?」

鍛冶屋のダクレスは、少しばかり緊張した面持ちで尋ねた。

「ええ! まさにその鋤ですよ! あの、お嬢ちゃんの言う通りに鍛えた方の鋤が、本当に…本当にすごいんだ!」

農夫は、興奮して身振り手振りで説明を始めた。

「硬い石だらけの畑で使ってみたんだが、いつもの鋤ならすぐに刃こぼれするような場所でも、あの鋤は全く傷一つ付かない! しかも、土への食い込み方がまるで違うんだ。まるで、今まで土の中に何か見えない壁があったのが、スッと消えたような感覚でね!」

農夫の言葉は、まるで魔法の話を聞いているかのようだった。彼の目には、疑いようのない真実の光が宿っている。

「本当に、粘り強い。これなら、どんなに荒れた土地でも、安心して畑を耕せる! この鋤があれば、今年の収穫は、きっとこれまで以上になりますよ!」

農夫は、深々と頭を下げ、心からの感謝を伝えた。鍛冶屋のダクレスは、農夫の言葉を聞きながら、驚きと、そして確信の表情を浮かべていた。彼の長年の経験と職人の勘が、エメリアの直感が正しかったことを悟らせていた。

農夫が去った後、トーマスは興奮冷めやらぬ様子の鍛冶屋のダクレスに話しかけた。

「まさか、本当にあの子の言う通りになるとは…」

トーマスは、娘の才能に改めて驚きを隠せない様子だった。

「ああ、トーマスさん。お嬢ちゃんには、本当に『物を見抜く力』がある。この方法を使えば、鋤だけでなく、斧や鍬、剣や鎧だって、もっと良いものが作れるかもしれない。これは、このヴァルハルト王国…いや、この世界の鍛冶の歴史を変える発見かもしれないぞ!」

鍛冶屋のダクレスの言葉は、熱を帯びていた。彼の目には、新たな可能性への挑戦という、職人としての情熱が宿っている。


その日の夕食時、食堂では家族全員で農夫の鋤の話を聞いた。トーマスは、鍛冶屋のダクレスから聞いた農夫の言葉を、まるで自分のことのように誇らしげに語った。

「…それでな、農夫さんが言うには、エメリアの言った通りに鍛えた鋤の方が、全く欠けずに、土に吸い付くように入っていったそうなんだ!」

トーマスの話を聞き終えると、エメリアの顔は喜びと驚きでいっぱいになった。自分の提案が、本当に確かな成果を生み出したのだ。

弟のルークも「エメリアすごい!」と無邪気に拍手をした。母親のエルアラも「よく頑張ったわね」と優しく頭を撫でてくれた。

この日を境に、鍛冶屋のダクレスの店では、エメリアの提案した方法が新たな鍛冶の技術として本格的に取り入れられることになった。L字金具の評判に加えて、今度は「ダクレスの鍛冶屋で作られた農具は、以前にも増して丈夫で長持ちする」という噂が、村中、そして近隣の村へと広がり始めた。

エメリアは、自分の小さな閃きが、これほど大きな波紋を広げていることに、驚きと、そして秘めたる自信を感じていた。彼女の『改造』スキルが、具体的な形で世界に影響を与え始めている。それは、まだ始まりに過ぎないが、エメリアの心には、未来への確かな手応えが宿っていた。

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Posted by erhz2_sodnjm0