第23話. 鍛冶屋の助手と、広がる好奇心

2025年7月18日

鋤の成功以来、エメリアが鍛冶屋のダクレスの店を訪れる日は、これまで以上に特別なものとなった。ダクレスは、エメリアの直感に全幅の信頼を置くようになり、新しい道具の鍛造や、既存の道具の改良について、積極的に彼女の意見を求めるようになった。

「お嬢ちゃん、この斧の刃、もう少し粘りを出したいんだが、どうすればいいと思う?」

ダクレスは、熱したばかりの斧の刃を金床に乗せながら、エメリアに尋ねた。エメリアは、その斧の用途や、使われる木材の種類などを頭の中で瞬時に思い浮かべた。そして、これまでのダクレスの教えと、前世のぼんやりとした知識を組み合わせ、自分なりの考えを伝える。

「うーん…この斧なら、一度叩いてから、少しだけ水に浸けて、また叩くのはどうですか? 硬くなりすぎずに、粘りが出るような気がします」

エメリアの提案は、ダクレスにとって、時に彼の長年の経験とは異なるものだった。しかし、鋤の件でその価値を痛感した彼は、迷うことなくエメリアの指示に従った。そして、その結果は常に驚くべきものだった。エメリアの言葉通りに加工された斧は、以前よりも木材への食い込みが良く、長く使っても刃こぼれしにくくなったと、使い手から喜びの声が上がった。

エメリア自身も、この日々の作業の中で、自分の『改造』スキルが少しずつ成長しているのを実感していた。特定の道具に意識を集中し、「こうなってほしい」と強く願うと、以前よりも明確に、その願いが道具に反映されるようになったのだ。それは、ほんのわずかな変化かもしれないが、彼女にとっては大きな進歩だった。

トーマスエルアラも、エメリアが鍛冶屋で成果を出していることを喜び、彼女の送迎を欠かすことはなかった。特にトーマスは、娘が職人として認められ、村の人々の役に立っていることを誇りに思っていた。ロランも城から手紙を送ってきては、エメリアの活躍を喜んでいるようだった。

ある日のこと、いつものように鍛冶屋での作業を終え、トーマスが迎えに来るのを待っていたエメリアは、店の隅に積まれた、見慣れない鉱石の山に目が留まった。それは、これまで見てきた鉄鉱石とは異なり、青みがかった銀色の光沢を放っていた。

「ダクレスさん、あれは何ですか?」

エメリアは、好奇心に駆られて尋ねた。

「あれかい? あれはミーア鉱といってな、このヴァルハルト王国でも滅多に採れない珍しい鉱石なんだ。鉄とは違う、もっと特殊な金属が取れるらしいが、加工が難しくてな…普通の炉では溶かすことすら難しいと言われている」

ダクレスはそう言って、少し残念そうに首を振った。

「昔、一度だけ、王都の大きな鍛冶師から頼まれて、その一部を加工しようとしたことがあるんだが、結局うまくいかなかった。特別な魔力が込められた道具を作るのに使う、なんて話も聞くが、うちでは手の出しようがない代物だよ」

珍しい鉱石と、それが秘めるという「特殊な金属」の可能性。エメリアの心は、またしても新たな好奇心に掻き立てられた。これまでの『改造』スキルは、既存の道具を改良することにしか使えていない。しかし、もしこの未知の金属を加工することができれば、もしかしたら、もっと大きな変化を生み出すことができるのではないか。

エメリアの瞳は、静かに、しかし確かな光を宿し、積み上げられたミーア鉱をじっと見つめていた。それは、彼女の『改造』スキルが、単なる改良から、未知の創造へと向けられる、小さな一歩となるかもしれない予感だった。