第27話. ミーア鉱への挑戦、そして新たな手掛かり

2025年7月18日

ロランがヴァルハルト王国での修行に戻ってから二日が経ち、今日はエメリアが鍛冶屋のダクレスの店へ行く日だった。ロランが持ち帰った魚の出汁のスープは、その風味豊かな香りがまだ食堂に微かに残っているようで、エメリアの心には、兄妹それぞれの分野で新しい発見があったことへの、温かい喜びが満ちていた。

しかし、エメリアの頭の中を占めているのは、やはりあのミーア鉱のことだった。前回、加工に失敗し、諦めかけた時に閃いた「熱して叩くだけじゃない、別の何か」という直感。それが本当に正しいのか、今日こそ試してみたいと思っていた。

鍛冶屋に着くと、ダクレスはいつものように笑顔でエメリアを迎えてくれた。

「やあ、お嬢ちゃん。今日は何か新しい発見があったかい?」

ダクレスの言葉に、エメリアは力強く頷いた。

「はい! ダクレスさん、私、ミーア鉱について試したいことがあるんです!」

エメリアは、自分の閃きをダクレスに説明した。それは、特定の温度や叩き方だけでなく、例えば「冷却の仕方」や「他の物質との組み合わせ」など、複合的な工程が必要ではないかという、漠然とした仮説だった。

ダクレスは、エメリアの言葉を真剣に聞いた。彼自身もミーア鉱の加工には苦戦してきただけに、エメリアの、これまでの常識とは異なる視点からの発想に、一縷の望みを抱いていた。

「なるほど…確かに、この鉱石は一筋縄ではいかない。お嬢ちゃんの言う通り、何か特別な工程が必要なのかもしれんな。よし、やってみよう!」

その日から、エメリアとダクレスの、ミーア鉱を巡る試行錯誤の日々が始まった。

エメリアは、ダクレスに教わりながら、通常の鍛冶作業もこなしていった。斧を研ぎ、鋤の刃を鍛え、新たな金具を作り出す。そうして金属の性質を肌で感じながら、休憩時間や作業の合間に、ミーア鉱の加工に挑んだ。

彼らはまず、鉱石を熱する温度や、叩く強さ、回数を細かく変えてみた。次に、熱したミーア鉱を、通常の水ではなく、油や土に埋めて急冷する、あるいはゆっくりと冷ますなど、冷却方法を変えてみた。エメリアは、前世の記憶から「焼入れ」や「焼き戻し」といった概念を断片的に思い出し、それをヒントにダクレスに様々な提案をした。ダクレスもまた、長年の経験と勘を頼りに、エメリアのアイデアを具現化するための方法を模索した。

だが、ミーア鉱は依然として加工を拒んだ。熱しても溶けず、叩いてもひびが入るばかりで、金属としての粘りを見せることはなかった。二人の間には、何度も諦めムードが漂った。

しかし、エメリアの『改造』スキルが、彼女を奮い立たせた。ミーア鉱に触れるたびに、彼女のスキルは微かに反応し、まるで「もっと違うアプローチが必要だ」と囁いているかのようだった。その微かな反応を頼りに、エメリアは思考を巡らせ続けた。

そして、数ヶ月が過ぎた頃。

彼らは、ある一つの方法にたどり着いた。それは、ミーア鉱を特定の温度で熱し、ある種の鉱物(村の裏山で採取できる、ごく一般的な白い石)の粉末を混ぜた特殊な液体に浸し、特定の回数だけ叩くという、複雑な工程だった。この方法を試した結果、ミーア鉱はこれまでになかった僅かな変形を見せたのだ。それは、完璧な加工とは程遠いものだったが、紛れもなく、ミーア鉱がその頑なな性質を、ほんの少しだけ緩めた瞬間だった。

「これだ…これだよ、お嬢ちゃん!」

ダクレスは、興奮してその変形したミーア鉱の欠片を手のひらに乗せた。彼の顔には、長年の職人としての経験と、エメリアの才能への深い敬意が入り混じった、感嘆の表情が浮かんでいた。

エメリアもまた、その小さな変化に、大きな手応えを感じていた。『改造』スキルが、この未知の鉱石にも作用し始めたのだ。それは、ミーア鉱の加工という、新たな挑戦への確かな「手掛かり」だった。