第31話. 秘めたる力と、新たな誓い

ミーア鉱に触れた時、エメリアの指先から流れ込んだ微かな光。そして、その鉱石がほんのわずかに、しかし確かに変化した手応え。あの瞬間、彼女の『改造』スキルは、「素材そのもの」へと働きかける領域に到達したのだと、エメリアは確信した。
しかし、その確信は、同時に胸の内に冷たい不安をもたらした。
(素材そのものを変える…?)
エメリアは、自分の手のひらに残る微かな感触を確かめるように、指をそっと握りしめた。もし、自分が望むままに素材の性質を根本から変えられるとしたら、それはどれほどの力になるだろう。硬い石を柔らかくしたり、脆い木材を鉄のように頑丈にしたり、あるいは――不意に、恐ろしい考えが頭をよぎった。
(もしかして、石を金に変えることだって…?)
その思考が脳裏をよぎった瞬間、エメリアの背筋に冷たいものが走った。錬金術――前世の物語で、石を金に変えるという禁忌の術として語られていたものが、この世界で、自分のこの手で可能になるかもしれない。
それは、あまりにも強大で、恐ろしい力だった。
もし、この力が他人に知られたら、どうなるだろう。人々は、畏怖し、あるいは羨望し、きっとこの力を奪おうとするだろう。国や権力者たちは、この力を独占しようと躍起になるに違いない。自分だけでなく、大切な家族にまで危険が及ぶかもしれない。
(これは、絶対に他人に知られてはいけない…!)
エメリアは、固く決意した。あの『改造』スキルは、表向きは「優れた道具職人の勘」として、ダクレスさんのように熟練した職人なら、いずれ到達できる技術として見せなければならない。ミーア鉱の加工方法も、私がスキルで加工した結果を、ダクレスさんと共に「試行錯誤の末に発見した新しい技術」として広めるべきだ。そうすれば、誰もが経験を積んで学べば、同じことができると考えるだろう。
ミーア鉱の加工方法も、あくまで誰もが努力すれば習得できる「技術」として残していかなければならない。そうすれば、この新しい発見は、ヴァルハルト王国に、そして村の人々に、本当の意味での豊かさをもたらすだろう。決して、私一人の特異な力として、秘匿されるべきものではない。
(私の『改造』スキルは、私にこういった知恵も授けてくれるのか…?)
エメリアは、改めて自分のスキルの深遠さに驚いた。ただ物を「改造」するだけでなく、それが世界にどう影響するか、どうあるべきかという「知恵」まで与えてくれるのだろうか。
あの声。 《…構造…改変…》
あの声は、ただ加工のヒントをくれるだけではなかった。もしかしたら、このスキルの正しいあり方や、危険性についても、導いてくれているのかもしれない。
エメリアは、静かにミーア鉱の欠片を手のひらに乗せた。見た目にはただの硬い石だが、その奥には無限の可能性と、そして計り知れない危険が潜んでいる。
(きっと、またあの声が教えてくれるに違いない…)
まだ見ぬ未来への不安と、新たな力への期待。二つの感情が交錯する中、エメリアは、この秘めたる力を、人々のために、そして正しい形で使っていくことを、静かに心に誓ったのだった。
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