第37話. 新たな通いと、家族の理解

翌朝、エメリアは朝食の席で、昨夜見た奇妙な夢について、家族に話すかどうか迷っていた。あの「声の主」が語った、『改造』スキルの真の力。そして、その力を決して他人に知られてはならないという警告。それらはあまりにも現実離れしており、話したところで誰にも理解してもらえないだろう。何より、家族を危険に晒すわけにはいかない。
結局、エメリアはスキルの本質については一切触れず、ただ漠然と「すごく不思議な夢を見たの」とだけ伝えた。
「へえ、どんな夢だったんだい?」
トーマスが興味深そうに尋ねたが、エメリアは言葉を濁した。「うーん、なんだかよく分からなくて…でも、もっと頑張らなきゃって思ったんだ!」
その言葉に、トーマスもエルアラも温かい眼差しを向けた。
朝食の後、エメリアは意を決して、家族に新たな提案をした。
「お父さん、お母さん。お願いがあるの」
皆の視線がエメリアに集まる。
「私、鍛冶屋に行く回数を増やしたいの。これまでは五日に一度だったけど、二日おきに、朝から行かせてもらえないかな?」
エメリアの言葉に、トーマスの顔に困惑の色が浮かんだ。
「二日おきに、しかも朝から? エメリア、それはさすがに無理がある。お前もまだ子供だし、食堂の手伝いもあるだろう。それに、毎日鍛冶屋ばかりにいたら、体に障るぞ」
トーマスは、娘の体調と、食堂の仕事のバランスを心配しているようだった。
しかし、エメリアの隣に座っていたエルアラが、穏やかに口を開いた。
「トーマス。エメリアがこれほど熱心に打ち込めることを見つけたのは、素晴らしいことではないかしら。それに、最近はルークも随分と仕事に慣れてきたようだし、簡単なことなら彼に任せられるようになってきたわ」
エルアラの視線を受けたルークは、いつもより少し背筋を伸ばし、得意げな顔で頷いた。
「うん! 僕、頑張るから! エメリア姉ちゃんは、安心して鍛冶屋に行っていいよ!」
ルークの健気な言葉に、トーマスは顔をしかめたが、二人の後押しに押し切られた形になった。
「…まったく、お前たちには敵わないな。分かった。だが、無理はするんじゃないぞ。もし疲れたら、すぐに休むんだ。あと、ちゃんとダクレス親方の迷惑にならないようにするんだぞ!」
トーマスは、しぶしぶといった様子で許可を出した。しかし、その声には、娘の成長への期待と、少しの心配が入り混じっていた。
「ありがとう、お父さん、お母さん! ルークも、ありがとう!」
エメリアは、満面の笑みで家族にお礼を言った。これで、ミーア鉱の研究に、より多くの時間を費やすことができる。そして、ミーア鉱から示唆された、自分のスキルの本当の意味を、さらに深く探求することができる。
明日から、エメリアの鍛冶屋への日々は、新たな段階へと進むことになった。
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