第38話 新たな日常と、ミーア鉱の躍進

翌日、エメリアは朝食を済ませると、いつもより早くトーマスの馬車に乗り込み、鍛冶屋のダクレスの店へと向かった。
店に着き、炉に火を入れるダクレスに、エメリアは少し照れながらも伝えた。
「ダクレスさん、私、今日から二日おきに、朝から来てもいいって、お父さんとお母さんが言ってくれました!」
ダクレスは、目を見開いてエメリアを見た後、満面の笑みを浮かべた。
「おお、そうか! それは助かる! お嬢ちゃんのその熱意に、トーマスさんたちも折れたか! 大歓迎だ!」
ダクレスの言葉に、エメリアは安堵した。これで、ミーア鉱の研究に、さらに時間を費やすことができる。
彼らは早速、ミーア鉱と炭素の「融合」のさらなる研究に取り掛かった。炭素の分量、熱する時間、冷却方法の微調整…。試行錯誤は続いたが、エメリアの『改造』スキルと、ダクレスの長年の経験、そして若い鍛冶師たちの協力が合わさり、ミーア鉱は驚くべき変化を見せ始めた。
炭素と融合したミーア鉱は、以前の頑固な性質からは想像もできないほど、加工しやすくなっていた。熱を加えると、鉄ほどではないが、しっかりと赤熱し、ハンマーで叩けば、しなやかに形を変える。しかし、冷めると、これまでの鉄や鋼をはるかに凌駕するほどの硬さと、驚くべき粘り強さを示した。
「これは…まるで、生きている金属のようだ…!」
ダクレスは、ミーア鉱で作られた小さな剣の刃先を指で弾きながら、感嘆の声を上げた。その音は、澄んでいて、どこか神秘的だった。
ミーア鉱の新しい加工方法が確立されたことは、すぐに鍛冶屋の中で共有された。ダクレスは、他の若い鍛冶師たちにも惜しみなくその技術を教え始めた。エメリアの『改造』スキルによって得られた知見は、あたかも長年の研究の末にダクレスが発見した、熟練の技術であるかのように語られ、皆が熱心に学んだ。
「このミーア鉱を使えば、これまでの武器や防具の概念が変わるかもしれない!」
「こんなに軽くて丈夫なら、どんな魔物にも通用するぞ!」
鍛冶師たちの間には、興奮と期待が渦巻いていた。彼らは、ミーア鉱を使って、新しい種類の剣や、軽量でありながら堅牢な防具を作り始めた。その試作品は、その性能の高さから、すぐに領主の耳に届くことになった。
当然、領主様へは正式な報告がなされた。新しい加工技術と、それによって生まれた驚異的なミーア鉱製の武器や道具の性能に、領主様は深く感銘を受けたという。
「素晴らしい! この技術は、我がヴァルハルト王国の未来を大きく変えるだろう!」
領主様はそう断言し、ミーア鉱を用いた製品をヴァルハルト王国のすべての領地で特産品とすることを決定した。これにより、ミーア鉱の採掘と加工は国を挙げた一大事業となり、ダクレスの鍛冶屋は、その中心的な役割を担うことになった。エメリアの小さな閃きと『改造』スキルが、村の小さな鍛冶屋から始まり、ついに王国全体を巻き込む大きな波へと変わっていった。その波は、人々の暮らしを豊かにし、ヴァルハルト王国の力を増強させる、確かな希望の光となったのだ。エメリアは、自分の力が正しい形で世界に貢献していることを実感し、その喜びを静かに噛みしめていた。
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