第39話. 領主の召集と、少女の功績

2025年7月20日

ミーア鉱がヴァルハルト王国の特産品となることが決定して以来、鍛冶屋のダクレスの店は、以前にも増して活気に満ち溢れていた。王国各地から集められたミーア鉱が運び込まれ、ダクレスと若い鍛冶師たちは、エメリアと共に確立した新技術で次々と加工を施していった。その製品は、領内だけでなく、他国からの商人も注目し始めるほどだった。

そんなある日、村に一人の伝令が慌ただしくやって来た。伝令は、直ちに鍛冶屋のダクレスとエメリアを、領主様の城へと呼び出す書状を持っていた。

「親方、これは…!」

若い鍛冶師の一人が、緊張した面持ちで書状を受け取った。

「ついに来たか…」

ダクレスは、静かに頷いた。エメリアもまた、少しばかり胸の高鳴りを感じていた。城へ赴くのは、ロランが帰省した時以来だが、今回は全く違う意味を持つ。

翌日、エメリアは普段着の上に、エルアラが仕立ててくれた一張羅のワンピースを身につけた。トーマスが特別に用意した馬車に乗り込み、ダクレスと共に、一路、城へと向かう。道中、エメリアは、自分の『改造』スキルが、どれほどの波紋を広げているのかを改めて実感していた。

城の広間には、領主様が威厳ある姿で座し、その両脇には、文官や武官たちが控えていた。エメリアは、ダクレスの隣に立ち、緊張しながらも、視線を真っ直ぐに領主へと向けた。

「よくぞ参った、ダクレス。そして、そちらが…エメリアか」

領主の声は、広間に響き渡った。エメリアは、軽く頭を下げた。

「ミーア鉱の加工技術、そしてそれによって生み出された数々の優れた品々。これらは、我がヴァルハルト王国に計り知れない恩恵をもたらすだろう。その功績、誠に天晴れである」

領主は、静かに、しかし力強く語った。そして、ダクレスに向かって言った。

「ダクレスよ。貴殿の長年の鍛冶師としての腕と、この新たな技術の確立への貢献は、もはや一村の鍛冶屋に留まるものではない。本来であれば、王国全土の鍛冶師を束ねる王立鍛冶ギルド長の任命は、国王陛下より直接なされるもの。しかし、その緊急性と重要性から、私が国王陛下に進言し、陛下の御名において、貴殿をヴァルハルト王国全土の鍛冶師を統括する総代表とし、ミーア鉱の生産と技術普及の指揮を執る任を命じる!」

「ははっ!」

ダクレスは、感極まった様子で深々と頭を下げた。長年の夢であった、王国全体の鍛冶師を束ねる立場。それは、彼にとって最高の栄誉だった。

続いて、領主の視線がエメリアに向けられた。

「そして、エメリア。この新たな技術が、貴女の閃きから生まれたことは、ダクレスより報告を受けている。その知恵と才能は、この年齢にして、すでに我々大人を凌駕するものがある」

領主の言葉に、エメリアは少しばかり顔が赤くなった。

「本来であれば、その功績から、ダクレスの副代表として、共に任に当たってもらうのが妥当であろう」

エメリアは、その言葉に内心驚きを隠せなかった。副代表。それは、村の小さな食堂の娘である自分には、想像もできないほどの重責だ。

「だが、貴女はまだ十歳。その若さで、これほどの重責を担わせるのは、酷というものだろう」

領主は、そう言って微笑んだ。エメリアはホッと息をついた。確かに、今はまだ、自分の『改造』スキルの秘密を守りながら、無理なく技術を普及させることに注力したい。

「よって、貴女の功績を称え、代わりに褒美を与えることとする。望むものを申してみよ。可能な限り、貴女の願いを叶えよう」

領主の言葉は、エメリアに新たな選択肢を与えた。彼女の心には、王国に貢献できた喜びと、そしてこれから自分が何を望むべきかという、静かな問いが宿っていた。