第46話. 新たな舞台と、秘めたる模索
家族に秘密を打ち明けて以来、エメリアの胸には、以前とは異なる覚悟が宿っていた。両親の心配そうな眼差しは、彼女の『改造』スキルを人知れず、しかし確実に役立てていこうという決意を固めさせた。鍛冶屋での作業中も、共同井戸の水を改善した時の手応えを思い出し、彼女は自分の能力の奥深さに静かな興奮を覚えていた。
(この『改造』スキル…少しずつだけど、なんだか力が上がっているような気がする…)
ミーア鉱の加工を手伝う中で、エメリアは以前よりも鉱石の内部構造が鮮明に見えるようになったり、狙った通りの「変容」がより少ない力でできるようになっていると感じていた。それは、まるで目に見えない**「レベル」**が上がっているような感覚だった。しかし、今の自分がどのくらいの段階にいるのか、これからどこまで力が伸びるのか、それは全くの未知数だった。
そんな日々の中、待ち望んでいた新しい工房がついに完成した。
村の広場にそびえ立つ、堅牢で広々とした建物。真新しい炉からは勢いよく炎が立ち上り、ミーア鉱を加工する鍛冶師たちの活気ある声が響き渡る。これまでの狭い鍛冶場とは比べ物にならないほど効率的な動線と、近代的な設備が整えられていた。ダクレスは、顔には隠しきれない満足感を浮かべながら、その指揮を執っていた。王都から視察に来ていた関係者たちも、その規模と技術の進歩に目を見張っている。
(新しい工房も完成したし…私は、このまま鍛冶屋の手伝いを続けるべきなのかな…?)
完成した工房を前に、エメリアの心には新たな問いが生まれた。ミーア鉱に関する研究は一段落し、大量生産の体制も整った。確かに鍛冶は面白いし、自分のスキルも向上する。しかし、『改造』スキルが鍛冶以外の様々な素材にも作用することを知った今、もっと他にできることがあるのではないか、という思いが募っていた。
彼女の『改造』スキルは、単に金属を鍛える能力に留まらない。木材を直したり、土壌を強化したり、さらには水脈を改善したりと、その応用範囲は計り知れない。
(この力は、鍛冶屋だけのものではないはずだ。誰にも知られないように、こっそりと、もっと色々なものを『改造』して、村の、そしてこの世界の役に立ちたい…)
エメリアは、このまま鍛冶屋の「特別顧問」のような立場で居続けるよりも、自分のスキルをより広範な分野で試したいと強く思うようになっていた。具体的な目標はまだ見えていないが、これまで身につけてきた知識や、これから学ぶべきことを整理し、自分の「改造」の力を最大限に活かせる道を探りたい。
数日後、エメリアは意を決して、ダクレスに相談を持ちかけた。
「ダクレスさん。新しい工房も無事に完成しましたし、ミーア鉱の加工も軌道に乗ったように思います」
「ああ、そうだ。これもエメリア、お前のおかげだ。本当に感謝している」ダクレスは、満面の笑みで答えた。
「それで…私、少し、鍛冶屋の手伝いの仕方を考えたいと思っているんです」
エメリアは、慎重に言葉を選んだ。
「もちろん、ミーア鉱で何か困ったことがあれば、いつでも手伝わせていただきます。それに、新しいアイデアが必要な時も、いつでも声をかけてください。でも…これからは、鍛冶屋での作業は、そういう特別な時に限定させてもらって、その分、私はもっと色々なことを勉強したり、他の場所で自分に何ができるか、探してみたいんです」
ダクレスは、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにエメリアの意図を察したようだった。彼は、エメリアが単なる鍛冶師ではなく、もっと大きな可能性を秘めていることを知っていた。
「なるほど…エメリア、お前らしい考えだ。確かに、お前の頭脳とひらめきは、この鍛冶屋だけに留めておくには惜しいものがある。私も、お前にミーア鉱の研究を託した時、いずれはそうなるだろうと予感はしていたよ」
ダクレスは、深く頷いた。
「分かった。無理に毎日鍛冶場に来る必要はない。だが、困った時や、新しい技術が必要になった時には、遠慮なく声をかけさせてもらうぞ。お前がどんな道を進むのか、私も楽しみにしている」
ダクレスの理解ある言葉に、エメリアは心から安堵した。これで、彼女は新たな一歩を踏み出すことができる。自分の『改造』スキルが、鍛冶という枠を超えて、この世界の多様な分野で、どのような「変容」を起こせるのか。秘めたる力を胸に、エメリアの模索が今、始まる。
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