第55話.図書室の静かな出会いと、知的好奇心の共鳴
アダマントに関する新たな知識と閃きを得たエメリアは、それ以降、放課後になると図書室に通い詰めるようになった。特に、鉱物や素材に関する書物を重点的に読み漁った。いつか、アダマントを実際に見て、その**「閃き」**を試してみたいという思いが募っていた。しかし、図鑑に記されたアダマントは「幻の鉱石」とされており、実物を見る機会など、そう簡単には訪れないだろう。それでも、エメリアは関連する知識を吸収することに、喜びを感じていた。
ある日の放課後、いつものように図書室の片隅で、古びた鉱物学の本を読んでいたエメリアに、一人の少年が近づいてきた。エメリアと同い年くらいの少年で、丸い眼鏡をかけている。彼は、そっとエメリアの隣の席に、自分が読んでいた分厚い歴史書を置いた。
「君、いつもここにいるね。本を読むのが好きなのかい? とても集中しているから、声をかけるのも気が引けたんだけど、つい気になってしまって」
少年は、少し照れたように尋ねた。その声は、控えめながらも、はっきりとした響きを持っていた。エメリアは顔を上げ、少年を見た。彼の目には、知的好奇心と、少しの戸惑いが混じっていた。
「はい。知らないことを知るのは楽しいです。あなたは?」
「僕もだよ。特に、歴史や、この世界の珍しい技術なんかに興味があるんだ。読書は、知識の宝庫だからね。ここに来ると、時間が経つのを忘れてしまうんだ」
少年は、そう言って微笑んだ。彼は自分の席に座ると、読んでいる歴史書をちらりと見た。
「僕はアルフレッド。君は?」
「エメリアです。エメリア・エルヴァンス」
「エメリアか。良い名前だね。僕は、君がいつも素材に関する本を読んでるのを知ってたんだ。何か研究でもしてるの? すごく難しそうな本を読んでるから、気になっていたんだ」
アルフレッドの言葉に、エメリアは一瞬ドキリとした。自分の秘密がばれているのではないかと警戒したが、アルフレッドの表情には純粋な好奇心しか見えない。彼の目は、知識への探求心に満ちていた。
「いえ、ただ興味があるだけで……。アダマントという鉱石について調べていました」
エメリアは言葉を選んで答えた。アルフレッドは特に深く追求することなく、自分が読んでいた歴史書を開いた。
「なるほど、アダマントか。あれは本当に不思議な鉱石だね。僕も以前、少しだけ調べたことがあるよ。誰も加工できないって言われているから、ほとんど活用されてないけど、もし加工できたら、きっとこの世界の技術を大きく変えることになるだろうね」
アルフレッドは、エメリアが読んでいた図鑑に目を向けた。彼の言葉に、エメリアは驚きと同時に安堵を感じた。彼は、アダマントの可能性を、エメリアと同じように感じているのだ。
「僕は、この世界の歴史にすごく興味があるんだ。特に、古代文明がどうして滅びたのか、その理由を知りたくて。文献を読み解いていると、色々な仮説が浮かび上がってくるんだよ。例えば、『太陽の王国』が滅んだのは、本当に天空の災厄だけだったのか、それとも、もっと別の原因があったのか、とかね。最近読んだ本では、古代の技術が失われたことと、文明の衰退に何かしらの関係があるんじゃないかっていう説もあって……」
アルフレッドは熱心に語った。彼の話は、エメリアが授業で聞いた歴史とは、また異なる深い洞察に満ちていた。彼は、単に事実を記憶するだけでなく、その背景や因果関係を深く考察しているようだった。エメリアは、アルフレッドの話に引き込まれ、彼の知識の広さと、その知的好奇心の強さに驚いた。
「君は、すごく詳しいね。私も、古代の文明については、授業で少しだけ習ったけれど、こんなに深く考えたことはなかったわ。天空の災厄という説も、根拠が曖昧だし、他にも何か原因があったような気がするわ」
「そうかな? ただ好きなだけだよ。でも、エメリアも、アダマントの可能性について考えているんだろう? あの鉱石が、この世界の未来を変えるかもしれない、って。加工できないからといって、諦めてしまうのはもったいないと思うんだ。もし、加工できたら、どんなものが作れるんだろうね?」
アルフレッドの言葉に、エメリアは心の中で確信を深めた。いつか、この少年にも、**自分が得た「閃き」**を、もう少しだけ話せる日が来るかもしれない。そして、共にこの世界の謎を解き明かし、技術の発展に貢献できる日が来るかもしれない、と。
図書室での出会いは、エメリアにとって、王都での新しい生活における、初めての「友達」との出会いだった。それは、単なる遊び仲間というだけでなく、共通の好奇心と知的好奇心で結びつく、特別な絆の始まりだった。二人はそれから、放課後になると図書室で、様々な知識について語り合うようになった。
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