第65話.教室のざわめきと、友の心配
ロッシュ先生との実験に没頭する日々が続く中で、エメリアは学校での友人たちとの交流も大切にしていた。特にアルフレッドとは、物置小屋での実験を手伝ってもらっていることもあり、休憩時間や放課後にはよく顔を合わせていた。しかし、最近のエメリアは、以前にも増して熱心に図書室にこもったり、放課後すぐに姿を消したりすることが増えていた。
ある日の昼休み、いつものように弁当を広げたアルフレッドとクリスティーナが、教室の窓から外を眺めるエメリアに気づいた。エメリアは、他の生徒たちが騒がしく行き交う中、どこか上の空といった様子で、一点を見つめている。
「エメリア、最近ずいぶん忙しそうだね。いつも放課後になるとすぐにいなくなっちゃうし、図書室でも難しい本ばかり読んでるみたいだけど……何かあったの?」
クリスティーナが心配そうに尋ねた。彼女は、エメリアの聡明さを尊敬している一方で、彼女が無理をしていないか、常に気を配っていた。
エメリアは、ハッと我に返り、二人に振り返った。
「あ、ごめん、クリスティーナ。少し考え事をしていたんだ。うん、最近はロッシュ先生のお手伝いで、ちょっと忙しいかな」
エメリアは、曖昧に言葉を濁した。ロッシュ先生との実験は、まだ他の生徒には内緒にされている。特に「土が生きている」だとか「目に見えないものが増えている」などと言っても、きっと誰も信じてくれないだろう。
アルフレッドは、そんなエメリアの様子に、何かを察したように口を開いた。
「もしかして、あの物置小屋での実験のことかい? 僕も少し手伝わせてもらってるけど、エメリアが本当に楽しそうだね。でも、あまり無理はしない方がいいよ。最近、少し顔色も悪いみたいだし、ちゃんと休んでる?」
アルフレッドの言葉に、クリスティーナも頷いた。
「そうよ、エメリア。あなた、最近少し痩せたみたいに見えるわ。勉強も大事だけど、健康も一番よ。私たちにできることがあれば、いつでも言ってちょうだいね」
二人の優しい言葉に、エメリアの胸は温かくなった。彼女は、王都に来てからできた大切な友人たちだ。彼らが自分のことを心から心配してくれていることに、エメリアは感謝の気持ちでいっぱいになった。
「ありがとう、二人とも。大丈夫。心配してくれて嬉しいよ。確かに、少し寝不足かもしれないけれど、実験が面白くて、つい夢中になっちゃうんだ」
エメリアは、正直に答えた。ロッシュ先生との実験は、彼女にとって知的好奇心を最大限に満たしてくれる、何よりも楽しい時間だった。しかし、その一方で、食事や睡眠を削ってしまうほど夢中になっていたのも事実だ。
「実験が面白いのはわかるけど、体が資本だよ。この間も図書室で、本を読みながらうっかり寝てたって聞いたよ?」
アルフレッドが少し呆れたように言った。エメリアは、ばつが悪そうに笑った。
「えへへ……ごめんね。でも、ロッシュ先生が、すごく面白い発見をしていて、私も目が離せないんだ」
「ロッシュ先生がねぇ……。一体どんなお手伝いをしてるのか、僕たちにも少しは教えてほしいな。エメリアがそこまで夢中になるなんて、よっぽどだね」
クリスティーナが興味津々に尋ねた。エメリアは、少し迷った後、言葉を選んで答えた。
「うーん……まだ、はっきりとは言えないんだけど……。でも、きっと、この王都の、みんなの役に立つことだと思う。特に、お風呂やトイレなんかの衛生が、今よりもっと良くなるかもしれないんだ!」
エメリアの言葉に、アルフレッドとクリスティーナは顔を見合わせた。特にクリスティーナは、学校のトイレの悪臭に悩まされていたため、エメリアの言葉に目を輝かせた。
「え、本当!? もしそれが本当なら、すごいことだわ! 早くその実験が実を結ぶと良いわね!」
クリスティーナは期待に胸を膨らませた。アルフレッドもまた、エメリアの言葉に真剣な表情で頷いた。
「エメリアがそこまで言うなら、きっとすごいことなんだろう。何か手伝えることがあったら、遠慮なく言ってくれ。僕も、エドワード父さんに頼んで、何か協力できることがないか聞いてみるよ」
アルフレッドの言葉に、エメリアは心から感謝した。秘密の実験を進める中で、友人たちの理解と協力が得られることは、何よりも心強い。エメリアは、二人の優しさに包まれながら、改めて、この実験を成功させ、みんなの役に立ちたいと強く誓ったのだった。
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