第71話.王都全体を巻き込む実験

レナード領主からの全面的な支援を取り付けたことで、ロッシュ先生とエメリアの**「特別な土」の実験は、かつてない規模で展開されることになった。学校の空き地だけでは手狭になり、王都の郊外にある広大な土地が、新たな実験場として提供された。そこには、大量の悪臭を放つ排泄物が運び込まれ、山のように積まれる「特別な土」が、その光景を圧倒していた。

王都中から集められた労働者たちが、ロッシュ先生の指示のもと、巨大な木箱を設置し、特別な土を敷き詰めていく。彼らは当初、悪臭に顔をしかめていたが、**「特別な土」**が瞬く間に悪臭を消し去る様子を目の当たりにするにつれ、その驚きは感嘆へと変わっていった。

「まさか、こんな小さな土の粒が、こんなにも早く悪臭を消すなんて! まるで魔法を見ているようだ!」

労働者の一人が、目を丸くしてつぶやいた。彼らの間では、この**「特別な土」は、やがて「奇跡の土」**と呼ばれるようになる。

エメリアは、ロッシュ先生の隣で、この大規模な実験の進行を見守っていた。彼女の**『改造』スキル**は、常に最適な「音波発生器」の調整方法や、土と排泄物の最適な混合比率、そして「粒子」が最も効率よく増殖する環境条件を「閃き」として提供し続けていた。その情報は、ロッシュ先生の綿密な観察と分析によって、具体的な指示へと変換され、現場で働く人々へと伝えられていく。

「ロッシュ先生、今日の気温と湿度では、土の乾燥が早まりそうです。水やりを少し増やした方がいいかもしれません。そして、この新しい排泄物には、もう少し音波発生器の振動を長く与えた方が『粒子』の活動が活発になるでしょう」

エメリアの助言は、常に的確だった。ロッシュ先生は、彼女の鋭い洞察力に舌を巻きながらも、その指示に従って作業を進めた。彼は、エメリアが単なる「助手の少女」ではなく、この実験の成功に不可欠な存在であることを、日々強く実感していた。

王都中の人々が、この実験の行方を見守っていた。特に、トイレの悪臭に悩まされてきた市民たちは、この**「奇跡の土」**がもたらすであろう変化に、大きな期待を寄せていた。パン屋の店主は、「これで安心して店を開けられる」と喜び、市場の商人たちは、「これまでの悪臭が嘘のようだ」と口々に語った。

レナード領主もまた、定期的に実験場を訪れ、その進捗状況を確認した。彼は、自らが下した決断が、王都の未来を大きく変えようとしていることに、深い満足感と責任を感じていた。

「ロッシュ先生、エメリアさん。君たちの実験は、この王都の歴史に、新たな一ページを刻むことになるだろう。この調子で、王都全体を、衛生的で豊かな土地に変えていってほしい」

レナード領主の激励の言葉に、ロッシュ先生とエメリアは、更なる決意を新たにした。

広大な実験場には、人々の熱気と、土の清々しい匂いが満ち溢れていた。この大規模な実験は、悪臭問題の解決というだけでなく、この世界の科学の常識を書き換え、人々の生活そのものを向上させる、壮大なプロジェクトへと発展していた。