第74話.アルフレッドの技術と、新たな発想

ロッシュ先生とエメリアは、物置小屋に戻り、「特別な土」の小型化実験に没頭していた。様々な形状や素材の容器を試す中で、彼らは「通気性」と「排水性」が「粒子」の活動を最大限に引き出す鍵であることを突き止めた。彼らの目標は、各家庭でも簡単に設置できるような、効率的な悪臭処理装置を開発することだった。

そんなある日の午後、アルフレッドが、放課後の手伝いに物置小屋へと顔を出した。彼は、二人が小さな壺や木箱を前に、真剣な表情で実験している様子を見て、興味深そうに声をかけた。

「エメリア、ロッシュ先生。今度はこんな小さな実験をしているんですね。何か手伝えることはありませんか?」

「アルフレッド君! ちょうどよかった。見てくれ、この壺だ。これに少量の『特別な土』と、悪臭の原因となるものを入れて音を当てると、悪臭が消えるんだ。だが、この壺だと、底に水が溜まりすぎてしまって、あまり効率が良くないんだ」

ロッシュ先生は、実験の進捗をアルフレッドに説明した。彼は、この実験の成果を、いち早く王都の人々に届けたいと考えており、アルフレッドの持つ技術が、この課題を解決するヒントになるかもしれないと期待していた。

アルフレッドは、ロッシュ先生が差し出した壺を手に取り、じっくりと観察した。そして、その壺の底を見つめながら、しばし考え込んだ。

「水を溜めずに、うまく抜く方法ですか……。父さんの工房で、時々、水時計の調整をすることがあるんですが、その時に、水が一定の量を超えないようにする仕組みを作ったことがあります。水時計というのは、穴の開いた容器から水が流れ出る速度を一定に保つことで時間を測る道具なんです。だから、水位が上がりすぎないように、水が一定量溜まると中の重りが持ち上がって穴が開き、水が抜ける、という簡単な仕掛けを組み込んでいましたが……」

アルフレッドの言葉に、エメリアの頭の中で、またしても**『改造』スキル「閃き」が走った。それは、まさに前世で見た「浄化槽」の仕組みの一部、「水が一定の量を超えたら流す」**という、水位調整の原理そのものだった。

「アルフレッド、それは素晴らしい発想だわ! その仕組みを、この壺に応用できないかしら? 水が一定量溜まったら、自動的に下の層へと流す仕組みを!」

エメリアは、興奮を抑えきれない様子で、アルフレッドに詰め寄った。ロッシュ先生もまた、その発想に驚きを隠せずにいた。

「なるほど! 水が一定量溜まるたびに、自動的に下の層へ送る仕組みがあれば、常に土に最適な湿り気を保つことができる! そして、下の層にも『特別な土』を敷き詰めておけば、さらに効率的に浄化を進められる! アルフレッド君、君の発想は、この実験に新たな可能性をもたらしてくれた!」

ロッシュ先生は、アルフレッドの肩を力強く叩いた。彼の発想は、単なる小型化の課題を解決するだけでなく、多層構造の浄化装置という、より進んだシステムの基礎を築くものだった。

アルフレッドは、自分の何気ない一言が、これほどまでに二人に喜ばれることに、少し照れくさそうに笑った。

「僕で役に立てるなら、父さんに相談して、もっと精巧な仕組みが作れないか、聞いてみます!」

アルフレッドの申し出に、エメリアは心から感謝した。これで、**「浄化槽」**の基礎となる原理が、この世界の技術で実現可能になった。あとは、この技術をどうやって人々の生活に溶け込ませていくかだ。

物置小屋の中は、再び熱気に満ちていた。ロッシュ先生の科学的知識と、エメリアの「閃き」、そしてアルフレッドの職人としての技術が、三位一体となって、この世界の衛生環境を根底から変える、新たな装置の開発へと向かっていくのだった。