第79話.正式な協力体制と、研究のこれから
薬品分析所での衝撃的な分析結果から数日後、ロッシュ先生とエメリアは、再びレナード伯爵様の王都邸に呼ばれた。彼らの前には、レナード伯爵様、そしてベイルが控えていた。
「ロッシュ先生、エメリアさん。ベイルから分析結果の報告を受けました。君たちの実験の成果は素晴らしいが、同時に、看過できない危険性もはらんでいることがわかった。しかし、ベイルも、この技術に大きな可能性を感じている。そこで、君たちと薬品分析所が正式に協力し、この問題を解決してほしいと願っている」
レナード伯爵様は、二人にそう切り出した。ベイルもまた、真剣な表情で頷いた。
「ロッシュ先生。私もこれまでの研究者人生で、これほどまでに興味深い『未知の成分』に出会ったことはありません。あなたとエメリアさんは、学校の教員、そして学生。我々と常につきっきりで実験を行うのは困難でしょう。そこで、このような協力体制を提案します」
ベイルは、一枚の羊皮紙を広げた。それは、協力体制の概要が記されたものだった。
「まず、あなた方の実験は、これまでの学校での活動と、私たちの薬品分析所での実験を並行して行います。ロッシュ先生には、学校での実験をこれまで通り続けていただき、基本的なデータの収集と改良をお願いしたい。私たちは、その成果を定期的に共有していただき、薬品分析所で、より高度な水の分析や、未知の成分の解明に注力します。エメリアさんには、引き続きロッシュ先生の助手として、『閃き』や発想を共有していただきたい。もちろん、学業を優先していただいて構いません。君の持つ発想とロッシュ先生の研究こそが、この実験を成功へと導く鍵ですから」
ベイルの提案は、二人の現状を考慮した、現実的かつ非常に合理的なものだった。ロッシュ先生は、これまでの研究者人生で、このような公的な機関と連携した実験を行ったことはなかったが、ベイルの真摯な姿勢と、彼自身の探求心に突き動かされ、その提案を受け入れた。
「ベイル殿、ありがとうございます! この実験が、学校の片隅で行われるだけのものに終わらず、王都の未来を拓くものとなるのであれば、私にできる限りの協力は惜しみません!」
ロッシュ先生は、力強くそう応えた。エメリアもまた、胸の中で安堵と喜びを感じていた。彼女が直接表舞台に立って働く必要はなく、これまで通り、ロッシュ先生の**「閃き」**を支える助手として、この世界の科学の発展に貢献できる。
こうして、ロッシュ先生とエメリア、そしてベイルを筆頭とする薬品分析所の協力体制が正式に発足した。
レナード伯爵様は、その様子を満足げに見守った。
「これで、王都の衛生問題は、必ずや解決に向かうだろう。そして、その先の食糧問題、さらに未知の病を解決する糸口になるかもしれない。ロッシュ先生、エメリアさん、君たちには感謝してもしきれない。期待しているぞ」
レナード伯爵様の言葉は、このプロジェクトの重要性を改めて二人に認識させた。
学校の物置小屋から始まった小さな実験は、今、王都の最高峰の科学者たちと連携し、この世界の常識を根底から覆す壮大なプロジェクトへと発展していった。エメリアは、この新たな協力体制の中で、自分の役割を再認識し、来るべき未来に向けて心を躍らせていた。