第83話.濾過層完成と、アルフレッドの挑戦

ロッシュ先生の呼びかけに応じ、生徒たちが持ち寄った様々な素材は、物置小屋に山と積まれていた。川原で拾った石、木炭の燃えカス、研磨用の砂……。一つひとつが、王都の衛生環境を変えるための大切なピースだった。

「先生、この石、僕のお父さんが言ってたんだけど、焼くと中が真っ赤になるんだって。何か特別な力があるんじゃないかな?」

アルフレッドは、手のひらサイズの赤い鉱石をロッシュ先生に見せた。彼の父、エドワードは時計職人であり、様々な鉱物の特性に詳しかった。

「ほう、それは面白い! 研磨砂もそうだが、君の家の技術は、この実験に大きなヒントを与えてくれるようだ。ありがとう、アルフレッド君!」

ロッシュ先生は目を輝かせ、その赤い鉱石を細かく砕き、試作機の濾過層に組み込んだ。そして、その結果は驚くべきものだった。

「エメリアさん、見てくれ! この赤い鉱石と木炭の組み合わせは、今までで最も濾過能力が高い! 水の透明度が格段に上がった! これなら、ベイル殿もきっと満足してくれるはずだ!」

ロッシュ先生は興奮を抑えきれず、エメリアとアルフレッドにその成果を熱心に説明した。

「すごい! 砂や木炭だけでもきれいになるのに、この石を組み合わせたら、こんなに透明になるなんて!」

アルフレッドは、自分の持ち寄った石が実験に貢献できたことを、心から喜んだ。

「うん、本当にすごいね。この浄化装置から出てくる水、まるで本物の泉の水みたいにきれいだ……」

エメリアは、浄化された水を手に取り、その透明度に感嘆した。彼女の**『改造』スキルは、濾過層に最適な素材として「鉄分を多く含む鉱石」「多孔質の炭素」**というヒントを与えていた。アルフレッドが持ち寄った赤い鉱石はまさに前者、クリスティーナが持ち寄った木炭は後者に該当し、ロッシュ先生は見事にその組み合わせを見つけ出したのだ。


濾過層が完成し、小型浄化装置はついに「完全な浄化」へと一歩近づいた。ロッシュ先生は、すぐにベイルにこの成果を報告するため、浄化装置の試作機を携えて薬品分析所へと向かった。

その日の放課後、物置小屋にはアルフレッドとエメリアの二人が残っていた。

「エメリア、僕、ロッシュ先生たちの実験を手伝っているうちに、なんだかこの**『粒子』のことがもっと知りたくなってきたんだ。父さんは職人だから、物をどう作るかの技術はすごいけど、どうしてこうなるのか、理屈を考えるのはロッシュ先生**の方がすごいと思う」

アルフレッドは、真剣な表情でエメリアに語りかけた。彼は、ただ言われた通りに手伝うだけでなく、この実験の「なぜ?」という部分に、心を惹かれ始めていたのだ。

「うん、そうだね。ロッシュ先生は、色々なことを教えてくれる。私も、**『粒子』**のことがわかってきたら、この装置をもっとすごいものにできるんじゃないかって、考えてるんだ」

エメリアは、アルフレッドの探求心に共感した。

「僕、今度、お父さんに頼んで、もっと小さい浄化装置の模型を作ってもらおうかな。これなら持ち運びが大変だけど、もっと小さくして、みんながポケットに入れて持ち運べるような浄化装置ができたら、もっとすごいんじゃないかなって!」

アルフレッドの発想は、これまでの「据え置き型」の浄化装置から、**「携帯型」**という新たな可能性を提示した。

「それはすごいね! 小さな装置だったら、旅に出るときとか、非常時にも役立つかもしれない! もっと小さい**『粒子』**の活性化装置も必要になるかも……」

エメリアの頭の中には、また新たな**「閃き」が生まれ始めていた。アルフレッドの何気ない一言が、この実験**にまた新しい方向性をもたらしたのだ。

二人の子供たちの、未来に向けた夢は、物置小屋の中で静かに、しかし確実に育まれていた。