第87話.予習実験と、友達との約束
ロッシュ先生の提案を受けてから、エメリアの放課後の過ごし方は少し変わった。物置小屋での実験に加え、ロッシュ先生と二人で、学校の授業の予習や復習を一緒に行うようになったのだ。
今日の魔法薬学の授業では、薬草『リリアンの葉』について学ぶ。ロッシュ先生は、授業で使うテキストを広げながら、エメリアに優しく語りかけた。
「今日の予習だ、エメリアさん。この薬草『リリアンの葉』は、解毒作用があることで知られている。君の**『閃き』**は、この葉の成分を分解し、毒素を無効化する方法について、何か教えてくれないか?」
エメリアは、テキストに描かれた薬草の絵をじっと見つめ、『改造』スキルを発動させた。すると、彼女の頭の中に、リリアンの葉の成分を分解し、毒素を無効化するための、いくつかの方法がひらめいた。
(この葉を細かく砕いて、特定の鉱石の粉末と混ぜて熱を加える……。そうすれば、毒素が中和されるはず)
「えっと……この葉を、石の粉と混ぜて熱したら、もっと効果が高まるような気がします」
エメリアは、自分の**『閃き』**を、ロッシュ先生が理解しやすいように言葉を選んで伝えた。
「なるほど! 鉱物との組み合わせか! 君は本当に天才的だ! その方法で、実際に実験してみよう!」
ロッシュ先生は、すぐに実験道具を準備し、エメリアの「閃き」を検証していった。その結果、本当にリリアンの葉の解毒作用が向上することが証明され、二人は大いに喜び合った。
「エメリアさん。君は、この世界の科学ではまだ誰も知らない方法を、次々と見つけ出してくれる。この実験を通して、君の**『閃き』**が、授業で習う知識とどう結びついているのか、私も一緒に解明していきたい」
ロッシュ先生の言葉に、エメリアは心の中で決意を新たにした。ただの「閃き」で終わらせるのではなく、きちんと理屈を理解して、自分の力として身につけなければならない。
翌日の昼休み。エメリアは、友人たちと中庭のベンチでお弁当を食べていた。
「ねえ、エメリア。今度のお休みに、一緒に街に買い物に行かない? 新しいアクセサリーのお店ができたんだって!」
リナが目をキラキラさせながら言った。
「えー、いいな! 私も行きたい! 新しいお店、どんなものが売ってるんだろう?」
マリアも楽しそうに同意する。
ロッシュ先生との実験も大切だが、エメリアもまた、友人たちと過ごす普通の学生生活を楽しみたいと思っていた。
「うん、いいよ! ちょうど、新しいインクが欲しかったんだ。何曜日にしようか?」
エメリアは、笑顔で二人に答えた。
彼女は、ロッシュ先生との科学的な探求と、友人たちとのおしゃべりや買い物といった、ごく普通の日常との両立を、少しずつ楽しむようになっていた。
(勉強も、実験も、友達と遊ぶ時間も……全部、私にとって大切なことなんだ。これからは、両方とも大切にしていこう!)
王都の平和な日常の中で、一人の少女は、自分自身の成長と、この世界の未来という、二つの大きな目標に向かって、着実に歩みを進めていた。