第88話.ショッピングの誘いと、新しい挑戦

週末。エメリアは、友人たちとの買い物の約束に胸を弾ませながら、寮の部屋で私服に着替えていた。これまでの彼女の頭の中は、ロッシュ先生との実験や**『閃き』**のことでいっぱいだったが、最近は友人たちとのおしゃべりや、街を散策する時間も大切だと考えるようになっていた。

「よし、これでいいかな……」

エメリアは鏡の前で自分の姿を確認した。いつもの制服とは違う、水色のワンピースは、少しだけ彼女を大人びて見せてくれた。

寮のロビーに降りると、リナとマリアが楽しそうに待っていた。二人とも、流行の髪飾りをつけ、華やかな私服に身を包んでいる。

「エメリア、遅いよー! 待ちくたびれちゃった」

リナが嬉しそうにエメリアに駆け寄った。

「ごめん、ごめん! 何を着ていこうか迷っちゃって」

エメリアは、二人の華やかな服装に、自分の服装がこれでよかったのか少し心配になった。

「大丈夫だよ、エメリア。その服、とっても似合ってる!」

マリアは優しくそう言ってくれた。三人は、賑わう王都の中心街へと向かった。

街の様子は、数か月前とは見違えるほど変わっていた。かつては路肩に溜まっていた汚水はすっかりなくなり、石畳の道は掃き清められていた。道行く人々も、以前より明るい表情をしていた。

「ねえ、見て! あのアクセサリーのお店、前はこんなに綺麗じゃなかったよね? 窓ガラスもピカピカで、中もなんだか明るい気がする!」

リナは、新しくできたばかりの店を見つけて目を輝かせた。

エメリアは、そのお店の排水がきちんと排水路につながっているのを見て、少し誇らしい気持ちになった。自分たちの実験が、こうして誰かの日常を彩る一部になっている。それが嬉しかった。

三人は、新しいアクセサリーのお店で時間を過ごし、色とりどりの髪飾りやブローチを眺めて楽しんだ。その後は、焼きたてのパンや甘いお菓子を売るお店を巡り、賑やかな時間を満喫した。


買い物を終え、帰り道についたエメリアは、一つの商店の前で足を止めた。そこは、様々な薬品やガラス製の瓶、不思議な鉱物などを売っている、小さな道具屋だった。

「エメリア、どうしたの? 疲れたなら、もう寮に戻ろうか?」

心配そうにリナが尋ねた。

「ううん、大丈夫! ちょっと、このお店に寄っていってもいいかな? ロッシュ先生実験で、何か使えそうなものがないか見てみたくて」

店を見てみたいというエメリアの言葉に、リナとマリアは顔を見合わせた。

「そっか。じゃあ、私たちもちょっとだけ見ていこうかな!」

マリアは、好奇心旺盛なリナの腕を引いて店の中へと入っていった。

(ありがとう、二人とも……)

エメリアはそう言って、道具屋の奥へと進んでいった。

彼女の頭の中には、ロッシュ先生が「濾過層の性能をさらに高めるには、もっと特殊な鉱物が必要かもしれない」と話していた言葉が、今も残っていた。彼女は、友人たちとの時間も大切にしながら、**『改造』スキル』**を活かす機会を常に探していたのだ。

(このお店なら、何か見つかるかもしれない)

エメリアは、様々な瓶や鉱物を眺めながら、自分の**『改造』スキル**を静かに発動させた。すると、彼女の目が、奥の棚に置かれた、小さな透明な瓶に釘付けになった。

その瓶の中には、まるで夜空の星を閉じ込めたかのように、キラキラと輝く小さな粒子が詰まっていた。それは、この世界では見たこともない、不思議な輝きを放っていた。

(この粒子……。この世界の鉱物じゃない。でも、私の『閃き』が、これを必要としている……。もしかしたら、**『改造』スキル』**をレベルアップさせるために、必要なものなのかも……)

エメリアの直感は、それが普通の鉱物ではないことを告げていた。それは、彼女の学生生活と、ロッシュ先生との実験、そして**『改造』スキル』**のレベルアップという、三つの目標を繋ぐ、新たな挑戦の始まりを予感させていた。