第89話.謎の粒子と、ロッシュ先生の戸惑い

エメリアは意を決して店主に話しかけた。初老の店主は、エメリアが指差した瓶を手に取り、不思議そうな顔をした。

「お嬢ちゃん、これかい? これはね、昔、遠い東の国から来た行商人が置いていったものなんだ。なんでも、夜空の星が落ちてきてできた砂だとか、奇跡の力があるだとか、わけのわからないことを言っていたよ。あまりに怪しい代物だったから、誰も買おうとせず、ずっと棚の奥にしまってあったんだが……」

店主は、そう言って首を傾げた。エメリアは、その話を聞いて、ますますその粒子に興味を惹かれた。

「これを……私に売っていただけませんか?」

店主は、まさかこんなものが売れるとは思っていなかったようで、驚きながらも「いいだろう。もう何年も売れずに場所をとっているだけだからね。お嬢ちゃんの持っている小遣いで十分だ」と、エメリアの小銭を受け取った。

エメリアは、その瓶を大切に抱え、友人たちの待つ入り口へと向かった。

「エメリア、何を買ったの?」

「うん。ロッシュ先生実験で、何か使えそうなものを見つけたんだ」

エメリアは、友人たちにそう言って微笑んだ。


その日の夜。エメリアは、寮の自室で、買ってきた粒子をじっと見つめていた。瓶の中で輝くその粒子は、まるで彼女を新しい世界へと誘っているようだった。

「この粒子、きっと何か特別な力がある。これをロッシュ先生実験に活かせたら……」

彼女は、翌日の放課後、ロッシュ先生に粒子を見せることを心に決めた。


翌日、いつものように物置小屋で実験を行っていたロッシュ先生は、エメリアが手に持った瓶を見て、目を丸くした。

「エメリアさん、それは……! なんと美しい粒子だ! この輝きは、私が知っているどの鉱物とも違う……!」

ロッシュ先生は、興奮した様子で瓶を受け取った。そして、早速、その粒子を顕微鏡のような**『拡大鏡』**で観察し始めた。しかし、彼の顔はすぐに戸惑いの表情に変わった。

「おかしい……。この粒子は、ただの光を放っているだけではない。熱を加えても、酸をかけても、一切の変化が見られない。まるで、この世界の物理法則が通用しないかのような……」

ロッシュ先生は、何度試しても結果が変わらないことに、頭を抱えた。彼の教師としての知識と経験をもってしても、この粒子の正体を突き止めることはできなかった。

「エメリアさん、これは……ただの鉱物ではないようだ。もしかすると、**『バクテリウム』**と同じように、この世界の常識では解明できない、まったく新しい物質なのかもしれない。君は、なぜこの粒子を私に見せようと思ったんだい?」

ロッシュ先生の真剣な問いかけに、エメリアは正直に答えた。

「なんとなく……。私の**『閃き』が、この粒子がロッシュ先生実験**に必要だって、そう言っているような気がしたんです」

ロッシュ先生は、その言葉を聞いて、深く頷いた。

「君の**『閃き』は、やはり私たちの想像をはるかに超えているようだ。よし、この粒子を、君と私の新しい実験**のテーマにしよう。この粒子が持つ、未知の可能性を、二人で解き明かしていこうじゃないか!」

ロッシュ先生の瞳には、再び探究の炎が燃え上がっていた。それは、王都の衛生問題を解決する実験とは、また異なる、全く新しい挑戦の始まりだった。