第92話.知識の探求と、新たな学園生活
夢の中で声の主から啓示を受けて以来、エメリアの心は大きく揺れ動いていた。自分の持つ**『改造』スキル』にレベルがあり、それが『ひらめき』と『知識』**を糧に成長するという事実。そして、その本質を決して誰にも明かしてはならないという警告。
(私は、この力を正しく使うためにも、もっと知識を身につけなきゃ……)
エメリアは、これまでの実験の成果である輝く粒子をロッシュ先生とベイルに託すことにした。二人の科学者なら、この未知の物質の可能性を最大限に引き出してくれるだろう。
「ロッシュ先生、この輝く粒子の研究は、ベイル殿と協力して進めてください。私は、学業に集中することにしました」
エメリアの申し出に、ロッシュ先生は少し驚いた表情をしたが、すぐにその意図を察した。
「そうか……。君はもう、自分の進むべき道を見つけたのだな。わかった。私もベイル殿と共に、この粒子と**『バクテリウム』の研究をさらに進めよう。そして君は、心ゆくまで知識を深めてくれ。それは、君の『閃き』**を、より確かなものにするための、大切な『実験』なのだから」
ロッシュ先生の理解と励ましの言葉に、エメリアは深く頷いた。
その日から、エメリアの放課後の過ごし方は一変した。物置小屋での実験ではなく、図書館の静かな一角が、彼女の新たな**『実験室』となった。彼女は、魔法薬学や鉱物学、植物学など、これまでの実験**に役立ってきた分野の書物を、片っ端から読み漁った。
「ふむふむ、この薬草には、こんな成分が含まれているのか……。だから、あの実験ではうまくいかなかったんだな」
エメリアは、書物の知識と、これまでの自分の**『閃き』**を一つひとつ結びつけていった。それはまるで、散らばっていたパズルのピースが、少しずつ形になっていくような感覚だった。
知識が増えるにつれて、不思議なことが起こり始めた。これまで難解に思えていた授業の内容が、驚くほどすんなりと頭に入ってくるようになったのだ。特に、魔法薬学の授業では、教師の説明が、以前とは比べ物にならないくらい理解しやすくなっていた。
(これが、スキルが『知識』を糧に成長するってことなのかな? 知識が増えるにつれて、スキルの『ひらめき』が、もっと具体的なものになっていく気がする……)
エメリアは、自分の能力の変化に、確かな手応えを感じていた。
そして、彼女が図書館に通うようになって数週間が経った頃、図書館で勉強をしていたアルフレッドが、エメリアを見つけて声をかけてきた。
「あれ、エメリアじゃないか! 最近、物置小屋にいないなと思ってたんだけど、図書館にいたんだね。ロッシュ先生の実験はもう終わったの?」
アルフレッドの問いかけに、エメリアは微笑んで答えた。
「ううん、終わってないよ。ただ、今は新しい**『実験』**をしてるの」
「新しい実験?」
「うん。この図書館の、たくさんの本を使ってね。この本の中には、まだまだ知らないことがたくさん詰まってるんだ」
エメリアの言葉に、アルフレッドは目を丸くした。エメリアが話す「実験」は、以前とは全く違う、知的な探求の旅だった。二人は、図書館の静かな空間で、それぞれの「実験」について語り合い、互いの探求心を刺激し合った。
エメリアの学園生活は、ロッシュ先生やベイルとの大きな実験から離れ、一人の少女として、知の海を泳ぐ、静かで充実した日々へと変わっていった。