第95話.届けられたドレスと、二つのレナード
交流会が三日後に迫ったある日の放課後、エメリアは友人たちと寮の部屋で談笑していた。そこに、寮の管理人から呼び出しがかかった。
「エメリア・エルヴァンスさん。あなた宛に、大きな荷物が届いていますよ」
エメリアが寮の受付に行くと、そこには彼女が一人では持ち上げられないほど大きな木箱が置かれていた。送り主の名前を見て、エメリアは驚きに目を見開いた。
レナード・タイベリアス・ハーヴェイ伯爵
それは、エメリアの父親が仕えるレナード伯爵様の名前だった。
「もしかして、中身はドレスじゃない?」
リナが目をキラキラさせながら言った。
「ううん……まさか」
エメリアはそう言いつつも、恐る恐る木箱の蓋を開けた。中から現れたのは、淡い桃色の絹でできた、美しいドレスだった。繊細なレースや、金糸で刺繍された花模様が施されており、見る者を魅了するような見事な出来栄えだった。
添えられていた手紙には、こう書かれていた。
エメリア嬢へ
貴女が王都の貴族学校との交流会に参加すると聞き、ささやかではございますが、我が家からのお祝いの品として、このドレスをお贈りします。
王都の行政を預かるレナード・タイベリアス・ハーヴェイ伯爵より
そして、その手紙の横には、もう一枚、別の手紙が添えられていた。
エメリアへ
このドレスは、王都にいる父、レナード・タイベリアス・ハーヴェイ伯爵からのものだ。
君が王都の平民学校へ通えるように、公的な後押しをしたのは、領地の領主として、私、レナード・ウィリアム・ハーヴェイだ。本来なら私が送るべきだが父がどうしても自分が送りたいというので今回の運びとなった。
父は王都で多忙なため、領地のことは私に一任されている。君の優秀さは、領民の間でも評判になっている。
交流会では、気負うことなく、楽しんでくるように。
領主レナード・ウィリアム・ハーヴェイより
エメリアは、二通の手紙を読み、驚きと感謝で胸がいっぱいになった。彼女が王都で学べるのは、レナード伯爵様と、その息子であるレナード領主様の二人の温かい配慮があったからだ。
「すごい! エメリア、これ、すごいドレスだよ! 交流会に着ていったら、きっとみんな驚くわ!」
リナとマリアは、ドレスの美しさに感嘆の声を上げた。
エメリアは、その美しいドレスをそっと撫でた。それはただの服ではなく、彼女の故郷と、彼女を支えてくれる二人の人物の、温かい思いが込められた贈り物だった。
(レナード伯爵様、レナード領主様、ありがとうございます。私、この交流会で、たくさんのことを学んで、成長してみせます!)
エメリアは、二人の期待に応えるためにも、交流会でしっかりと自分の道を見つけようと心に誓った。そして、その美しいドレスは、彼女の背中を優しく押してくれる、特別なものとなった。