第96話.貴族との交流会と、新しい友人

週末。いよいよ貴族学校との交流会の日がやってきた。エメリアは、レナード伯爵様から贈られた淡い桃色のドレスを身につけ、緊張しながらも胸を弾ませていた。

そのドレスは、決して豪華絢爛なものではなかった。しかし、上質な絹の柔らかな光沢と、繊細なレースや金糸で施された控えめな刺繍は、貴族の娘が着るような派手さはないものの、平民の商人の娘が着るには十分すぎるほどの上品さがあった。

レナード伯爵様レナード領主様のお心遣いが、本当に嬉しい……)

エメリアは、鏡に映る自分の姿を見つめ、改めて二人のレナード様に感謝した。貴族の多い交流会で、場違いに浮いてしまわないように、それでいて、惨めな思いをしないように。そんな細やかな配慮が、この一着には込められているように感じたのだ。

「わあ、エメリア! すごく似合ってる!」

リナとマリアは、エメリアの姿に感嘆の声を上げた。二人も、交流会のために新調した可愛らしいドレスに身を包んでいる。

「ありがとう。二人とも、すごく素敵だよ」

三人は、お互いのドレス姿を褒め合い、笑顔を交わした。

交流会の会場は、王都でも屈指の広さを誇る大広間だった。色鮮やかな装飾が施され、甘い香りが漂うお菓子や飲み物が並んでいる。会場内は、貴族学校の生徒たちと平民学校の生徒たちで、すでに賑わっていた。

「緊張するね……」

マリアが、少し不安そうにつぶやいた。

「大丈夫だよ! みんな、いい人ばかりだから!」

リナは、そう言ってマリアの手を握り、三人は人々の輪の中へと進んでいった。


交流会が始まってしばらく経った頃、エメリアは一人、会場の隅に置かれた観葉植物を眺めていた。その植物の葉が、少し病んでいることに気づいたのだ。

(この葉、栄養が足りてないみたいだ……。**『特別な土』**があれば、すぐに元気になるんだけどな)

エメリアがそんなことを考えていると、一人の少年が話しかけてきた。

「君、その植物に興味があるのかい?」

少年は、エメリアと同じくらいの歳で、きらびやかな貴族の服を身につけていた。しかし、その瞳は優しく、威圧感は全くない。

「はい。少し葉の色が悪いので、どうしたら元気になるかなって考えていました」

エメリアは、素直に答えた。

「そうか。実は僕も、植物を育てるのが好きなんだ。この葉の色は、栄養不足が原因だろうね」

少年は、そう言ってエメリアの隣に立った。彼は、エメリアが植物に興味を持っていることに驚きつつも、嬉しそうだった。

「僕の名前は、アルベルト。君は?」

「エメリア・エルヴァンスです」

二人は、植物の話で意気投合し、時間を忘れて話し込んだ。アルベルトは、貴族学校の生徒でありながら、植物学に深い関心を持っており、様々な珍しい植物の知識を持っていた。

「君は、どうしてそんなに植物に詳しいんだい? 貴族の子じゃないみたいだけど……」

アルベルトの問いに、エメリアは正直に答えた。

「私は、ロッシュ先生という先生と、『特別な土』の実験をしていたんです。その時に、植物についてもたくさん勉強しました」

『特別な土』……? それは、あの王都の衛生問題を解決した、噂の**『バクテリウム』**のことかい?」

アルベルトは、驚きに目を見開いた。

「はい! まさにその通りです!」

エメリアは、アルベルトが**『バクテリウム』**のことを知っていたことに驚いた。

「すごい! 君が、あの世紀の大発見をした一人だったんだね! 僕は、その**『バクテリウム』**の研究にすごく興味があって、いつか君たちと話してみたいと思っていたんだ!」

アルベルトは、エメリアの手を握り、興奮気味にそう言った。

エメリアは、まさかこんな場所で、**『バクテリウム』**に興味を持つ貴族の少年と出会うとは思ってもみなかった。それは、彼女のこれからの学園生活に、また一つ、新しい道が拓ける予感だった。