第107話.魔法を無効化する砂と、エメリアの決意
セバスチャンが研究に参加する日がやってきた。エメリアは、このまま公爵の思惑通りに研究が進むのを指をくわえて見ているわけにはいかなかった。彼女は、ある計画を胸に、ロッシュ先生と共に物置小屋へと向かっていた。
その計画とは、『改造』スキル』で、輝く粒子が混ざった『特別な土』に細工を施すことだ。セバスチャンが魔法を使うと、その魔力が急激に吸収され、無力化されるように土を改造する。そうすれば、魔法ではこの研究は進まないことを、公爵に知らしめることができる。
(この改造は、絶対に誰にも気づかれてはいけない……)
このアイデアは、先日、セバスチャンの登場に焦っていたエメリアの夢に、あの声の主が現れて教えてくれたものだった。
「**『改造』スキル』**は、物質の特性を書き換える力。魔力というエネルギーを吸収し、無効化する物質を、君なら作り出すことができるだろう」
声の主の言葉は、エメリアに新たな希望を与えてくれた。
物置小屋に着くと、すでにオスカーとセバスチャンが、ロッシュ先生とベイルと共に実験の準備をしていた。エメリアは、学業に専念しているという建前を保ちつつ、実験の様子を見学するという形で、研究室に立ち入った。
セバスチャンは、エメリアの存在を気にする様子もなく、実験用の容器に輝く粒子が混ざった**『特別な土』**を入れるよう指示した。エメリアは、実験を手伝うふりをして、セバスチャンの背後でそっとその容器に触れた。
その瞬間、エメリアの**『改造』スキル』**が発動した。
(よし……。魔力を吸収する構造を、土に組み込む……!)
彼女の脳裏に、土の分子構造が鮮明に浮かび上がる。そこへ、声の主が示した「魔力無効化」の構造式が、まるで光のように流れ込んできた。エメリアは、誰にも悟られないように、ごくわずかな力で、その構造式を土に作用させた。
「では、やってみましょうか、セバスチャン様」
ロッシュ先生が、緊張した面持ちで言った。
セバスチャンは、自信満々に掌を土の入った容器にかざし、魔力を流し込んだ。彼の指先から、淡い光が土へと吸い込まれていく。しかし、その光は、土に触れた途端に勢いを失い、まるで霧散するかのように消えていった。
「なっ……!?」
セバスチャンの顔から、自信の色が消えた。彼は、もう一度、そしてもう一度、強い魔力を土に流し込もうとするが、結果は同じだった。土は、まるで魔力を喰らうかのように、彼の力を全て吸い尽くしてしまう。
「どういうことだ……!? この土は、私の魔力を全て無効化する……!?」
セバスチャンは、顔面蒼白になり、驚きと戸惑いの表情で、土を睨みつけた。
オスカーも、その信じられない光景に、言葉を失っていた。
エメリアは、そんな彼らを横目に、心の中で静かに勝利を確信していた。彼女のささやかな改造が、セバスチャンの持つ魔力という異能を打ち破ったのだ。この実験結果は、公爵の思惑を大きく揺るがすことになるだろう。
エメリアは、これから始まる公爵との戦いに、勝利への手応えを感じ始めていた。