第109話.公爵の動きと、影に潜む公爵
アルカディアス公爵の怒りは、公爵邸に留まることなく、王都の裏側で静かに波紋を広げていた。彼の命令通り、オスカーとセバスチャンは、ロッシュ先生たちの研究室から**『特別な土』**を持ち去り、その秘密を解き明かすべく調査を開始した。
しかし、公爵の動きは、常に監視されていた。
ベイルは、アルカディアス公爵の監視役が研究室にやってきたその日から、全ての情報を密かにレナード伯爵に伝えていた。アルカディアス公爵の真の目的が、研究の独占にあることを知っていたレナード伯爵は、ベイルからの報告を元に、慎重に次の手を考えていた。
そして、もう一人、アルカディアス公爵の動きに神経を尖らせている人物がいた。
それは、レナード伯爵の盟友であり、アルカディアス公爵の政敵でもある、アードレ公爵だ。彼は、公爵が科学の成果を横取りし、私物化しようとしていることに、強い危機感を抱いていた。
アードレ公爵は、独自のコネクションを使って、アルカディアス公爵の行動を秘密裏に調査させていた。彼の目的は、アルカディアス公爵の野望を阻止し、レナード伯爵の勢力を守ること。そして、この機会にアルカディアス公爵の不正を暴き、その地位を揺るがすことだった。
「アルカディアス公爵は、とうとう本性を現したか。研究の横取りだけでなく、魔法を使ってまでその秘密を暴こうとしている。これは、公の場に持ち出せば、アルカディアス公爵の失脚を狙えるほどの不正だ」
アードレ公爵は、執務室で部下にそう告げた。彼の瞳には、アルカディアス公爵を追い詰めるための、冷たい闘志が宿っていた。
「しかし、アルカディアス公爵様は、その研究が科学の力によるものだということを、理解していないようです。魔法と科学は、全く異なる分野。セバスチャンが、その研究の核心に迫ることができるとは限りません」
部下は、慎重に言葉を選んだ。
「いや、違う。アルカディアス公爵は、セバスチャンに、**『特別な土』**の魔力無効化の秘密を解き明かせと命じたそうだ。これは、科学の領域を超えた、魔力そのものの特性に関わる問題。セバスチャンならば、その謎を解く糸口を見つけ出すかもしれない。我々は、その前にアルカディアス公爵の不正を暴かねばならん」
アードレ公爵の瞳には、深い懸念が宿っていた。
アルカディアス公爵、レナード伯爵、そしてアードレ公爵。王都の権力を巡る三つ巴の戦いが、水面下で静かに、しかし激しく繰り広げられ始めていた。