第111話:アルベルトの危機と、エメリアの決断

ロッシュ先生ベイルが、公爵の監視下で研究を続ける一方、エメリアは学業に専念する日々を送っていた。しかし、その平静は、突然の知らせによって打ち破られた。

放課後、図書館で勉強していると、駆け込んできたのは、息を切らしたアルベルトだった。彼の顔は青ざめ、瞳には恐怖の色が宿っている。

「エメリアさん……。助けてくれ!」

アルベルトは、震える声でそう言った。

「アルベルト君、どうしたの? 何かあったの?」

エメリアは、彼のただならぬ様子に、胸騒ぎを覚えた。

アルベルトは、周りに誰もいないことを確認すると、小さな声で話し始めた。

「僕の父親が、アルカディアス公爵に狙われているんだ。父は、公爵のやり方に反対していて、科学技術の発展を支持している。そのせいで、公爵から嫌がらせを受けているんだ」

彼の父親が、エメリアが会った植物学者であること、そして彼もまた、レナード伯爵と同じく、公爵の政敵であること。その事実に、エメリアは驚きを隠せなかった。

「そして、今日……。公爵の代理人が、父の庭園に、**『魔法の病』**と呼ばれるものを植え付けたんだ。その病は、植物だけでなく、動物や人間にも感染すると言われている。このままでは、父の庭園が、そして家族が、危険に晒されてしまう……!」

『魔法の病』。その言葉に、エメリアの脳裏に、あのセバスチャンの顔が浮かんだ。公爵は、科学の力で研究を支配しようとしているだけでなく、魔法の力を使って、政敵を排除しようと企んでいるのだ。

「公爵は、父に研究をやめさせ、科学への支持を撤回させるために、この病を使ったんだ……。エメリアさん、君の**『閃き』**なら、この病を治す方法を見つけられるかもしれない! 父を、そして僕の家族を、助けてほしい!」

アルベルトの必死な願いに、エメリアは言葉を失った。

『魔法の病』……。それは、私の**『改造』スキル』**と、セバスチャンが使う魔力の、力のぶつかり合いになる……)

エメリアは、自分の能力が、ただ研究を助けるだけでなく、人々の命を救うために使うべきものだと、改めて感じた。しかし、その一方で、公爵の怒りをさらに買うことになれば、ロッシュ先生ベイル、そしてアルベルトの家族だけでなく、自分自身にも危険が及ぶことを知っていた。

「わかったわ、アルベルト君。私に、できる限りのことをさせて。あなたの家族は、私が必ず助ける」

エメリアは、迷いを振り払い、アルベルトに力強く答えた。彼女は、もはや自分の力の秘密を隠すことよりも、大切な人を守ることを優先することにした。

エメリアは、アルベルトと共に、彼の邸宅へと向かった。彼女の新たな戦いが、今、幕を開ける。