第112話.魔法の病と、エメリアの『簡易鑑定』

2025年8月13日

アルベルトの言葉を信じ、エメリアは彼と共に彼の邸宅へと急いだ。公爵の陰謀が、ついに自分たちの身近なところにまで及んできたことに、エメリアの心は重く沈んでいた。

彼の邸宅の庭園は、まるで死の気配に覆われているかのようだった。色鮮やかだったはずの草花は、灰色にくすみ、葉は萎れ、土は黒ずんでいた。その光景は、エメリアが**『バクテリウム』**を発見した村の汚れた井戸を彷彿とさせた。

「これが……『魔法の病』

エメリアが、震える声で呟いた。その病は、植物の生命力を吸い取り、庭園全体を蝕んでいるように見えた。

「はい。公爵の代理人が、この庭園に、魔力で汚染された土を埋め込んだそうです。父は、この病が広がる前に、何とかしようと……」

アルベルトが、悲痛な面持ちで語った。

エメリアは、勇気を振り絞って、病に侵された土に手を触れた。その瞬間、彼女の**『簡易鑑定』**スキルが発動する。

【簡易鑑定:汚染土壌】 【土壌の汚染度:高】 【主な汚染源:魔力に汚染された『闇の結晶』 【症状:接触した生物の生命力を奪い、魔力に変える。放置すると、周辺の土壌、水、空気にまで汚染が広がる】

(やはり、セバスチャンが関わっている……!)

鑑定結果は、エメリアの予想を裏切らなかった。**『闇の結晶』**とは、公爵家が持つ、魔力を高めるための触媒だろう。それを悪用して、セバスチャンは、魔力汚染を引き起こす兵器を作り出したのだ。

「エメリアさん、どうだ!? 何かわかるか?」

アルベルトが、期待と不安の入り混じった表情で尋ねた。

エメリアは、鑑定で得た情報を元に、アルベルトに説明した。

「この病は、魔力に汚染された土が原因で、植物や生命体の生命力を奪っているみたい。放置すると、庭園全体が、そしてこの邸宅が、危険に晒されてしまう……」

エメリアは、アルベルトの顔を見て、決意を固めた。

「でも、大丈夫。私に任せて。この病を治す方法を、必ず見つけ出すから」

エメリアは、心の中で、**『改造』スキル』を発動させる準備を始めた。彼女の『改造』スキル』**は、魔力を無効化する物質を作り出すことができる。この能力を使えば、魔力に汚染された土を浄化することができるはずだ。

しかし、その改造は、公爵の監視下にある研究室ではなく、アルベルトの庭園で行われる。それは、公爵の策略に直接立ち向かうことを意味していた。エメリアは、自らの秘密を危険に晒す覚悟を決めたのだ。

エメリアの新たな戦いは、アルベルトという大切な友人を守るため、そして、公爵の野望を阻止するために始まった。