第116話.アルカディアス公爵の召喚と、エメリアの安堵
国王アルフレッドからの召喚状は、アルカディアス公爵邸に、嵐のように届けられた。召喚状を受け取った公爵は、その内容を読み、怒りではなく、驚きと戸惑いで顔色を変えた。
「アードレのあの男が……! まさか、このことを国王陛下にまで報告するとは……!」
公爵は、アードレ公爵が自らの不正を暴こうとしていたことに、初めて気づいた。彼は、ロッシュたちの研究を軽視し、レナード伯爵の動きばかりを警戒していた。その油断が、最大の敵に付け入る隙を与えてしまったのだ。
「オスカー! セバスチャン! お前たちの報告書は、一体どうなっているのだ!? なぜ、フィリップ・アークライトの邸宅で**『魔法の病』**が使われたことを報告しなかったのだ!?」
公爵は、部下たちを激しく問い詰めた。彼らは、公爵の命令に逆らうことはできず、ただ頭を垂れるしかなかった。
「そして、あの**『魔法の病』**が、平民の小娘が持っていた砂で治されただと? 馬鹿な! そんなことが、あってたまるか!」
公爵は、信じられない事実に、叫び声を上げた。彼の頭の中では、すべての歯車が狂い始めていた。
その日の夜、エメリアは、ロッシュ先生から手紙を受け取った。そこには、アードレ公爵が国王に奏上し、アルカディアス公爵が王宮に召喚されたことが書かれていた。
(やった……! アードレ公爵様が、動いてくださったんだ……!)
エメリアは、安堵のあまり、その場に崩れ落ちそうになった。彼女の**『改造』スキル』**と、その秘密を守るための孤独な戦いは、報われたのだ。
手紙には、ロッシュ先生からの伝言が添えられていた。
「エメリアさん。君がフィリップ・アークライト卿を救ったことが、公爵の不正を暴く決定的な証拠になった。君のおかげで、公爵の野望は、ついに阻止されるだろう」
エメリアの瞳からは、大粒の涙が溢れ出した。それは、恐怖や不安からではなく、心からの安堵と、達成感の涙だった。
公爵の権力と、魔道士の力という圧倒的な脅威に、彼女は一人で立ち向かおうとしていた。しかし、彼女の小さな勇気と、その能力を信じてくれた人々のおかげで、公爵の不正は暴かれ、彼女たちの研究は守られることになった。
アルカディアス公爵の失脚は、王都の貴族社会に大きな変動をもたらすだろう。そして、それは、エメリアたちの研究が、公爵の監視から解き放たれ、本来の姿で進められることを意味していた。