第128話.魔法の核心と、二人の探求
エメリアからの手紙を受け取って以来、ロッシュ先生とベイルは、彼女が記した熱を吸収する魔法陣の構造式に没頭していた。その魔法陣は、彼らがこれまでに見てきた、どの魔法陣とも異なっていた。魔法陣の研究は、この世界の科学者にとっては未知の領域だったが、二人は研究者としての好奇心と、エメリアに頼ってばかりはいられないというプライドから、その謎を解き明かそうと決意した。
「エメリアさんの魔法陣は、どうにも奇妙なんだ。マナの流れを制御する部分が、今まで知られているものとは全く違う……」
ロッシュ先生は、何枚もの羊皮紙に書かれた魔法陣の構造式を広げ、頭を抱えていた。従来の魔法陣は、マナの流れを円滑にし、特定の現象を効率よく引き起こすための「道筋」のようなものだった。しかし、エメリアの魔法陣は、マナの流れを「逆流」させたり、「圧縮」させたりするような、まるで物理法則に反するような設計がなされていた。
「先生、見てください! この部分の記号です!」
ベイルが、ある部分を指さした。
「この記号は、マナを特定の方向に流す記号として知られていますが、エメリアさんの魔法陣では、その記号が反転している……。これは、マナを逆方向に流すことを意図しているのではないでしょうか?」
ベイルの指摘に、ロッシュ先生はハッとした。
「そうだ……! マナの流れを逆にすることで、熱を奪っているのか! だが、マナの流れを逆にすることは、通常ならば魔力の暴走を引き起こすはず……。なぜ、エメリアさんの魔法陣では、それが安定しているんだ?」
二人は、何日も寝食を忘れて、魔法陣の謎に挑んだ。そして、ついにその核心にたどり着く。
「先生! 分かりました! この魔法陣の隅にある、この小さな記号です! この記号は、マナを圧縮する記号ではありません……。これは、マナの暴走を防ぐための、**『制御弁』**の役割を果たしているのです!」
ベイルの言葉に、ロッシュ先生の顔に、探求者としての喜びと、深い驚きが浮かんだ。
「そうか……! 従来の魔法陣は、マナの流れを制御することで、魔法を発動させていた。だが、エメリアさんの魔法陣は、マナの流れを逆行させ、その暴走をこの**『制御弁』**で抑え込むという、全く新しい発想だ! これは、もはや魔法の領域ではない……。科学だ!」
二人は、エメリアの**『閃き』**が、魔法を科学的に解明し、制御するという、とてつもない可能性を秘めていることを悟った。それは、この世界の魔法の常識を根底から覆す発見だった。
「エメリアさん……。君は、一体どれほどの可能性を秘めているんだ……」
ロッシュ先生は、エメリアに感謝と、尊敬の念を抱きながら、彼女に負けないよう、さらなる研究への情熱を燃やした。