第134話.家族との別れと、公爵邸での新生活

エメリアは、アードレ公爵の養女として王都へ向かう前、一度故郷の村に帰っていた。家族と最後の夜を過ごすためだ。明日からは公爵邸での暮らしが始まり、貴族学校へ通うことになる。それは、彼女の夢を叶えるための大きな一歩だったが、同時に、慣れ親しんだ家族との生活に終わりを告げる瞬間でもあった。

「エメリア、寂しくなるが、お前ならきっと立派な貴族になれる。お前の才能を、世界のために役立てておくれ」

父は、そう言って優しくエメリアの頭を撫でた。母は、目に涙を浮かべながら、新しい服や身だしなみを整えるための道具を、丁寧に鞄に詰めてくれた。弟と妹は、別れが辛くて泣き出してしまった。

「みんな、ありがとう。私は、貴族になっても、みんなの妹で、娘で、姉よ。絶対に、みんなのところへ帰ってくるから!」

エメリアは、涙をこらえながら、家族一人ひとりと固く抱きしめ合った。

翌朝、エメリアはアードレ公爵が手配した馬車に乗り込み、家族に見送られながら、故郷の村を後にした。馬車が遠ざかるにつれて、彼女の胸には、期待と少しの不安が混じり合っていた。


王都のアードレ公爵邸に到着したエメリアは、まず公爵邸の使用人たちに挨拶をした。彼らは、新しいご令嬢となるエメリアに、温かく礼儀正しく接してくれた。

そして、公爵の執事であるセバスチャンが、エメリアを公爵の書斎へと案内した。

「新しい生活に、きっと戸惑うことも多いだろう。だが、心配はいらない。君の才能と未来を、私は全力で支援する」

アードレ公爵は、温かい眼差しでエメリアを迎えた。彼の隣には、公爵の妻であるイザベラ夫人と、娘のリリアが座っていた。

「エメリア。ようこそ、私たちの家へ。これからは、あなたも私たちの家族よ」

イザベラ夫人は、優しく微笑みながら、エメリアの手を握った。

そして、最後にリリアが、少し照れた様子でエメリアに話しかけた。

「エメリア、また会えて嬉しい。これからは、毎日会えるんだね」

エメリアは、その言葉に安堵し、心からの笑顔を見せた。貴族学校の図書館で出会った友人と、まさか家族として再会するとは思ってもみなかった。

こうして、エメリアの貴族としての新生活が、アードレ公爵邸という温かい場所で始まった。それは、彼女が故郷の家族との繋がりを大切にしながら、新たな家族と友情を育み、未来へと向かう、希望に満ちた旅立ちだった。