第154話.半年後の街と、新たな守護者
街づくりが始まってから、およそ半年が過ぎた。エメリアの**『閃き』とゼノスの建築技術、そして鍛冶屋ダクレスが率いる職人たちの努力によって、新しい街の基礎は着々と形になりつつあった。川の上流から木材を運搬するための『クレーン』**はフル稼働し、建物の基礎には、耐久性を高めるための魔法陣が刻み込まれていた。
「エメリア子爵様、給水施設の建設は、予定よりも早く進んでおります!」
ゼノスは、誇らしげに報告した。彼の顔には、この街づくりに参加できる喜びが満ち溢れている。
「この調子でいけば、来年の春には、最初の区画が完成するでしょう」
ガイウスもまた、順調に進む街づくりに満足していた。彼は、資材の調達や職人への給与支払い、そして街の防衛体制の整備など、内政の面を一手に引き受けていた。しかし、その顔には、一つの懸念が影を落としていた。
「エメリア子爵様。街の建設は順調ですが、街を守るための騎士団がまだ未編成です。腕の立つ者を何人か集めましたが、彼らを統率できる、経験豊富な人物がおりません」
ガイウスが、真剣な表情で言った。この街は、発展すればするほど、悪意を持った者たちの標的となる可能性がある。そのためには、強力な騎士団が不可欠だった。
「やはり、そこが一番の課題ですね……」
エメリアも、そのことを懸念していた。彼女の力は、街を繁栄させることはできるが、直接的に守る力ではない。
そんな時、アードレ公爵からの手紙が届いた。手紙には、一人の男をこの街へ派遣することが書かれていた。
「公爵様は、我々の懸念を察しておられたのですね……」
ガイウスは、手紙を読み終え、静かに頷いた。
数日後、一人の男がこの街にやってきた。彼は、鎧を身につけ、顔には無数の傷跡が刻まれている。その佇まいからは、並々ならぬ威圧感が感じられた。
「アードレ公爵様の命により、この領地の騎士団長を務めることになりました、ディラン・フォークナーと申します」
男は、エメリアの前に立ち、深々と頭を下げた。
「あなたは……!」
エメリアは、その男の顔を見て、驚きを隠せないでいた。彼は、かつてアルカディアス公爵の不正を暴くために、アードレ公爵が派遣した、秘密裏に行動する騎士の一人だった。彼の武力と統率力は、王都でも知られているほどの実績を持つ者だった。
「エメリア子爵様。お久しぶりです。この街を、命をかけてお守りすることを誓います」
ディランは、そう言って、力強くエメリアを見つめた。
エメリアは、ディランという心強い守護者の登場に、安堵の表情を見せた。これで、街づくりと並行して、街を守るための体制も整えることができる。エメリアの故郷の村は、着実に、理想の街へと姿を変えていっていた。