第170話.都市の繁栄と、迫りくる影
エメリアの街は、もはや小さな村ではなかった。王都から多くの人々が移り住み、活気あふれる都市へと変貌を遂げていた。
広大な農場からは、バクテリウムの土壌で育った豊かな作物が収穫され、エメリアが考案した**『クレーン』**や、魔法陣で強化された道具を使う林業や工業も盛んに行われていた。街の入り口では、エメリアが設置した魔法陣が、犯罪者や悪意ある者を正確に察知し、未然に事件を防いでいたため、治安は王都を凌ぐほどに安定していた。
街は繁栄し、人々は笑顔に満ちていた。しかし、その急速な発展は、他国の警戒心を煽るには十分だった。
「エメリア子爵様、クルダン帝国からの干渉が強まっています」
ガイウスが、眉間にしわを寄せて報告した。
「クルダン帝国……。噂には聞いていましたが、やはり、無視できない存在でしたか」
エメリアは、以前、ロッシュ先生から聞いた、クルダン帝国の話を思い出していた。クルダン帝国は、王国とは違い、貴族が絶大な力を持つ国だ。
「ええ。クルダン帝国は、この都市の急速な発展を脅威と見なしているようです。我々の農作物の品質や、工業製品の質の高さが、彼らの市場を圧迫し始めているのです」
ガイウスの言葉に、エメリアは黙って耳を傾けた。経済的な摩擦は、いつしか軍事的な衝突へと発展する可能性がある。
「さらに、悪い知らせがあります。王国の貴族派が、クルダン帝国に亡命したとの噂です。彼らが、この都市の情報をクルダン帝国に流している可能性は否定できません」
ディランが、そう言って、厳しい表情で付け加えた。
エメリアは、窓から見える、平和な都市の景色を眺めた。彼女が作り上げた、この平和な街を、外敵から守らなければならない。その思いが、彼女の心の中で、一層強くなっていった。
「ガイウスさん、ディランさん。この都市を、誰にも渡さない。どんな脅威からも、この街を守り抜くわ」
エメリアの瞳には、かつての不安な表情はなかった。そこにあったのは、揺るぎない決意と、故郷の街を守るという、強い使命感だった。
エメリアの戦いは、国内の貴族派との対立から、国際的な紛争へと、その舞台を移しつつあった。彼女の**『閃き』**は、この国の未来を、そして、世界の運命を、大きく変えていくことになる。