第172話.城塞都市への変貌と、知恵の戦い
エメリアは、クルダン帝国からの脅威を前に、都市の防衛強化を決意した。彼女は、ガイウス、ディラン、そしてルークを執務室に集めた。
「皆、クルダン帝国からの脅威が、いよいよ現実味を帯びてきました。この都市を、どんな攻撃にも耐えうる、最強の城塞都市にしたいと考えています」
エメリアの言葉に、一同は真剣な表情で耳を傾けた。
「まず、街を囲む魔法の壁は、すでにミーア鉱よりも硬い。ですが、クルダン帝国の大軍による組織的な攻撃に耐えるには、さらなる強化が必要です。壁の周りには、すでに作られている堀を、幅と深さ、両方を大きく改修します。これによって、敵の侵入を物理的に防ぐことが可能になります」
ゼノスが、彼女の指示を受け、すぐに設計図を書き始めた。
「次に、最も重要な防衛策です。私は、都市全体を覆う、巨大な**『防御魔法陣』を構築します。この魔法陣には、通常の防御機能だけでなく、敵が放った魔法を吸収し、その魔力を逆に敵に放つ『魔法反射』**の魔法陣も組み込みます」
エメリアの言葉に、ディランは驚きを隠せないでいた。
「魔法反射……!それは、この国の常識を遥かに超えた魔法です。それが実現すれば、クルダン帝国の魔道士団も、ただの足手まといになるでしょう」
「ええ。これで、魔法攻撃による被害は、ほぼ防ぐことができるはずです。ですが、これはあくまで防衛策です。戦争は、起こらないに越したことはありません」
エメリアは、そう言って、ルークに視線を向けた。
「ルーク、あなたの出番です。私たちは、クルダン帝国との戦争を避けるため、経済的な側面から彼らの力を削ぐ必要があります。貴族学校で学んだ知識を、この街のために使ってくれませんか?」
「はい、お姉ちゃん!任せて!」
ルークは、そう言って、力強く頷いた。彼は、ガイウスと共に、クルダン帝国の貿易記録や経済状況を、さらに詳細に分析し始めた。
「クルダン帝国は、特定の貴族たちが特定の産業や資源を独占することで、その権力を維持しています。しかし、この都市が生産する高品質で安価な農産物や工業製品が、すでに彼らの市場に影響を与え始めているようです。このままいけば、独占体制が崩壊し、貴族間の対立が激化する可能性があります」
ルークの言葉に、エメリアは再び**『閃き』**を得た。
(クルダン帝国の貴族が独占する市場をさらに揺るがす……。そのためには、彼らの市場を必要としない、全く新しい流通ルートを築けばいい……!)
エメリアの頭の中で、新たな魔法陣の構想が次々と生まれていく。それは、単なる防衛策にとどまらない、クルダン帝国の内政を攪乱し、戦争を回避するための、壮大な計画だった。
「ルーク、クルダン帝国の平民たちが、貴族の支配から解放されるような、新たな流通ルートを、あなたの知識で探してほしい。そして、ディランさん、彼らがそのルートを使えるよう、我々の騎士団で、密かに支援する体制を整えましょう」
エメリアの都市は、今、物理的な防御だけでなく、知的な戦いにも備え、クルダン帝国の脅威に立ち向かおうとしていた。彼女の戦いは、武力ではなく、知恵と革新によって、この国の未来を切り開いていくものだった。