第173話.新たな流通ルートと、ゼノスの挑戦

エメリアの都市では、クルダン帝国に対抗するための準備が着々と進められていた。物理的な防衛策として、堀の拡張と魔法の壁の強化、そして都市全体を覆う巨大な**『防御魔法陣』**の構築が、ゼノスの指揮のもとで始まった。

「エメリア子爵様、堀の拡張は順調に進んでおります。ですが、都市を覆うほどの巨大な魔法陣の構築には、大量の魔力と、高度な技術が必要です。この規模の魔法陣は、この国でも前例がありません」

ゼノスは、そう言って、エメリアに難題を突きつけた。

「わかっています、ゼノスさん。だから、私が作った魔法陣を、さらに改良し、効率と出力を最大限に高めます。それに、魔力の供給源については、ロッシュ先生に協力を仰ぐつもりです」

エメリアは、そう言って、ゼノスを安心させた。彼女の言葉は、ただの強がりではない。彼女の頭の中には、通常の魔法理論を遥かに凌駕する、新たな魔法陣の設計図が既に描かれていた。

一方、執務室では、ルークガイウスが、クルダン帝国の経済状況を分析し、新たな流通ルートの構築に奔走していた。

ルーク様、クルダン帝国は、特定の貴族が、都市間の流通を独占しています。そのため、平民たちは、安価で質の良い商品を手に入れることができません」

ガイウスの言葉に、ルークは、一枚の地図を広げた。

「そうなんです。だから、僕は、この地図にある、帝国の辺境にある村々を経由する、秘密の流通ルートを提案します。このルートを使えば、クルダン帝国の貴族が支配する市場を通さずに、僕たちの商品を、平民たちに届けることができます」

「なるほど……!それは、クルダン帝国の貴族の権力基盤を揺るがす、素晴らしい戦略ですな!」

ガイウスは、ルークの才能に感嘆の声を漏らした。

その頃、エメリアは、ロッシュ先生を訪ねていた。彼女は、王都の魔力災害を収束させた、彼女が持つ新たな力の核心を明かすことはせず、あくまで技術的な協力を求めることにした。

「先生、巨大な魔法陣を動かすためには、安定した魔力の供給源が必要です。私の**『閃き』で、ある構想を得ました。先生のバクテリウム**の研究と、私の魔法陣の技術を組み合わせれば、実現できるかもしれないんです」

エメリアは、そう言って、ロッシュ先生に、新しい魔力供給システムの構想を語った。それは、バクテリウムをさらに進化させ、魔力エネルギーを効率的に生成・貯蔵する、画期的な技術だった。

「エメリア……。これは、実に興味深い構想だ!もし実現すれば、君の街だけでなく、この国の未来を大きく変えることになる!」

ロッシュ先生は、エメリアのアイデアに感銘を受け、協力を快諾した。

「わかった。君がその力を、平和のために使おうとしているのなら、私は、全力で君に協力しよう」

ロッシュ先生は、エメリアと共に、巨大な魔法陣を動かすための、新たな魔力供給システムの研究を始めた。

エメリアの都市は、今、物理的、経済的、そして魔法的な側面から、クルダン帝国の脅威に立ち向かうための準備を整えつつあった。